ルーレンの夜明け

       第11話 手当て

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ユーリアはその男を隊長と呼び、

理緒の親が森で山賊に襲われたようで

森を彷徨っていたのを保護したと言った。



男は理緒のそばに来ると、

「おい。坊主。その布を取れ。」

と顔を覆っていた布に手をやった。



理緒はその布を押さえながら言った。

「訳あって皆の前ではこの布を取ることはできません。」

隊長はくるっと向きを変えるとこう言った。


「事情があるなら、聞こう。マーシェも一緒に。」

「はい。」男の後ろに控えていた栗色の髪の男がそう言った。




隊長について行こうとした時、近くのテントから

「やめてくれ〜〜。助けてくれ〜〜。」と言う声が聞こえてきた。

理緒は迷わずにテントの中に入っていった。

「おいっ。」隊長が呼ぶ声が後ろで聞こえた。



テントの中はどうやら病室のようだった。

その真ん中で大声をあげる男を2,3人の男が押さえて

もう1人の男が足を切る体勢で剣を振りかざしている。

「医者は?」理緒はテントに入ってきた隊長を振り返って言った。


「連れて来なかった。」と言う。

理緒は、床にリュックを下ろすと中から医療道具を取り出して

まずは手袋を嵌めた。



「切り落とすことはいつでもできるだろう?

 俺が見る。」

理緒はそう言うと怯える男の顔を見て微笑みながら言った。

「俺はリオン。あなたは?」

ちなみにリオンという男性名は存在するとゼストから聞いていたので

そう名乗った。



「ブラッシュ。」

「ブラッシュ。俺を信じて、体から力を抜いて。」

理緒は、男に顔を近づけて言った。

男は間近で見る理緒を見ておとなしく上を向いて目を閉じた。



理緒は男の足の方に移動すると、足のそばにしゃがんで傷口をよく見た。

これは・・・ひどいな・・と理緒は思った。

傷口はぐしゃぐしゃで虫が湧いている。

しかし、まだ間に合う。それに、こういう症状は見たことがある。



理緒は、注射を取り出して男の腕にさすと

足の処置に取りかかった。

理緒の後ろでは隊長とマーシェという男と

数人の男が呆然と理緒の手つきを見ていた。

それは、この世界の医者はある意味魔術師であり、

理緒のように処置するなど見たことが無かったからだ。



「おい。何か手伝うことは?」

隊長の男は理緒にそう声を掛ける。

「清潔な布があったら持ってきて。後熱い湯があったらそれも。

 それとどうしても痛くて動くだろうから軽くブラッシュを押さえて。」

理緒は手を動かしながらそう言った。



理緒はブラッシュに明るく声を掛けながら

器用に手を動かし続け、最後に傷口を縫うと、ようやく安堵の溜息をついた。

「もう、大丈夫だよ。ブラッシュ。」

理緒がそう言うと「ありがとう。リオン。ありがとう。」

ブラッシュは泣きながらそう言った。



隊長の男も理緒に握手を求めて言った。

「ブラッシュを助けてくれて礼を言う。

 あちらのテントで着替えてくれ。」

理緒は自分の姿をみて苦笑して頷いた。

服にはブラッシュの血がつき、汗でぐちょぐちょに濡れていたからだ。

理緒は、道具を片付けてリュックを片手で持つと

隊長とマーシェの後をついてテントを出て、その近くの小型のテントに

移った。



「姿を見られたくなければカーテンの向こうで着替えると良い。」

隊長の言われたとおり理緒は、カーテンの後ろで服を着替え

布を頭に巻きつけ、テントの中に戻ると隊長とマーシェが座ってお茶を飲んでいた。

「おい。リオンも茶を飲め。」

隊長はそう言いながら理緒に茶を差し出した。



「あの・・・。この布を取る前に1つ聞きたいのですが。」

理緒はそう切り出した。

「なんだ?」

「この国で世界樹とはどう扱われているのですか?」

隊長とマーシェが驚いたように視線を交わした後、マーシェが口を開いた。

「この国、リタニア王国では世界樹は命の源として扱われております。

 こうして、隊が派遣されるときも医者はつかないまでも

 私のような神官が行動を共にしております。

 かつての世界樹様は無くなっても私達は世界のどこかに世界樹様が

 あると信じているのですよ。」

「ああ。俺達は確かにリタニア王国に忠誠を誓ってはいるが

 世界樹様は我らの魂の源。我らの神だ。」

「それは、良かった。」

理緒はそう言いながら頭に巻いていた布を取った。

2人は驚きで口をあんぐりあけたままと

理緒の黒い髪と黒い目を見つめたままかたまった。




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