眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-8-

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「話は、私が生まれる前にさかのぼるんだ。

 前龍王、私の父上は異世界には渡らずにこの世界で花嫁を得た。」

「それって、可能なの?」

「ああ、可能だ。そもそも異世界に行くと言う事は

 決められたことではない。

 初代龍王と私のように花嫁目的で異世界に行くことは珍しかったはずだ。

 しかし、しきたりはしきたりだから、龍王が眠るというおふれを

 ある日出し、その99年後に花嫁を選ぶ御触れがでて花嫁選びは

 通常通り行われた。」


「じゃあ、前龍王の花嫁はどのように?」

「龍王の直轄地、ナバラデルトには今までの花嫁を保護するために

 作った貴族制度がある。この貴族の大部分が異世界から来て

 選考に漏れた者の子孫だ。

 だから、彼らは異世界の人の血筋をひいているから

 龍王の花嫁になる権利があると考えている。

 そして、龍王自身も一見平穏なナバラーンに満足して

 別に異世界に渡らなくても良いと考える者もでてきた。

 貴族は、力のある龍を個人的に招き守護龍にすることで

 銀の龍に近い龍を作った。

 そこで、龍王が認めると自動的に守護龍が銀の龍になるという

 本来の意味と違う意味で銀の龍になることも多くなった。

 そうしてくると、龍王自身も本来やらなければならない

 仕事をやらずに当主達に任せるようになってしまった。

 それが何代か続けば本来の姿が見えなくなる。

 ナバラーン自身は今考えると初代龍王の加護があったから

 小さな綻びがあっても平穏だった。

 そうですよね?」



リューゼが言うとリュートが話した。

「私たちは、見守る存在。そして、ナバラーンの大地を守る存在。

 ナバラーンの民を守り導くのは龍王なのだから、

 我々はそちらの方には目を向けるべきではないと判断していた。」



「前龍王、私の父も何不自由無く、ナバラデルトから出ることも無く

 幼少時代を過ごしてきた。余計な知識を植えつけるのを周囲は恐れて

 各当主ともあまり親密に過ごさなかった。

 だから、父は自分の側近の龍と貴族に育てられたようなものだった。

 確かに、大きくなるまで私の祖父にあたる龍王と共にはいたが

 その方も政にはあまり興味が無かったらしい。

 そして、父は貴族でも権力のある者の娘と結婚をした。

 その娘の守護龍は紅・黄・翠・白だった。

 だから、しきたりの通り、蒼・桜・闇・紫の当主は

 銀の龍となるべき者を推薦して銀龍とした。

 父は愛情というものは一緒に生活した上で生まれると思っていた。

 父は金の龍ゆえに、純粋だったんだ。


 父は娘と結婚をして、娘は8つの卵を産みその卵は銀の龍が

 守った。

 しかし、銀の龍も所詮、金で買われた龍だ。

 その中の紅龍は娘に恋をした。

 そして、娘は龍王ではなく別の龍に恋をした。

 それは紫龍。優しくて絵を描くのが好きな龍。

 娘は紫龍に夢中だった。


 しかし、紫龍が好きなのは絵を描くこと。

 娘は狡猾だった。自分の絵を描いて欲しいと紫龍に頼み、

 部屋に誘い茶に眠り薬を入れ、寝室に連れて行くと

 ベッドに寝かせ、自分も服を脱ぎベッドに入った。

 紫龍は華奢だから娘でも運ぶことができたのだ。

 しかし、1つだけ誤算があった。


 それは、紅龍が娘をいつも目で追っていたこと。

 紅龍は、様子がおかしいと思い娘の部屋を開けたのだ。

 紅龍はベッドに寝ていた2人を見て眠っている紫龍を

 ベッドから引きずり落として、剣を構えた。

 娘はナイトテーブルから短剣を出すと紅龍に抱きついて

 胸元に突き刺した。

 紅龍が倒れると未だ眠っている紫龍に娘は覆いかぶさり

 紫龍の唇を奪った。


 娘は結婚の時の誓いを忘れていた。

 結婚の時の誓いは龍の約束以上に拘束力があるもの。

 思いのこもったキスは誓いを破るもの。

 激痛が娘の体を抜け娘は息絶えた。

 娘が息絶えると銀の龍は時を共にするのだから

 そこで、息絶えた。

 龍の誓約を破った娘が砂のように消えるのと同様に・・。


 父と当主は、異変を感じその部屋に入った。

 当主達は、事件解決より銀の龍達が守っている卵を

 救うことを優先した。

 卵を回収し、当主達が卵を守った。


 しかし、娘はまだ龍王の卵を産んでなかった。

 龍王の卵は娘が守り産まなければならない。

 このままでは、龍王が産まれない。

 父は、龍王だけが本能的に受け継ぐ術を使った。

 それは、初代の龍王が当主達を作った術。

 その術で卵を作り、自らその卵を守った。

 しかし、父には卵を守る力が足りなかった。


 術を使うことで力をたくさん使ったからだ。

 そして産まれた私は龍王になるには力が足りなかった。

 だから、父は決心した。

 ある程度、ナバラーンが安定したとき、全ての父の力を私に注ぐことを。


 そんなことをすると、父の体は原型を保てずに砕け

 魂すら、この地に残ることはできない。

 しかし、父はそれは自分の罪を償うことだと捉えていた。

 だから父は、時が来たとき眠っている私に力を全て注ぎ

 ナバラーンの塵となった。


 同時に当主達も同じ運命をたどったのだろう。


 一方、父は事件の真相を自身の能力で知っていた。

 しかし、父は事件について口を閉ざした。

 それは、生まれた子供達に自身の母が犯した罪を告げることは

 酷だと考えたことと、やはり公表することによっての混乱を避けたかったからだ。


 私は、父の犠牲の上に王になったのだ。」

リューゼはそう言って目を落とした。



慧は、リューゼに抱きついて思いっきりリューゼを抱きしめた。

そして、顔をあげて言った。


「リューゼ・・・愛してるよ。」


どんなに苦しんだろう。

どんなに嘆いただろう。

どんなに泣いただろう。

慰めの言葉なんかはどれも陳腐なものに思えた。

だから、慧は自分の精一杯の気持ちをこめて言った。




「リューゼ・・・愛してるよ。」


リューゼは慧をぎゅっと抱きしめた。

慧もリューゼを精一杯抱きしめる。

リューゼの顔は見えなかったけれど、リューゼが泣いているのがわかった。



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