眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-6-

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慧は、後ろから誰かに抱えられている感じがした。

「ケイ・・・・。」

耳元でどこかで聞いたことがある声がした。

「う・・ん?」慧は何となく返事を返した。

足元が宙に浮き自分が金色の光を帯びながら

飛んでいるのがわかった。


後ろから慧を抱きしめている人は落ち着いた様子で

話しかけた。

「下を見てごらん。」

そこには、急な雨で呆然と天を見つめる紅龍達がいた。



「ケイ・・君にはここに大きな稲妻を落とし全滅させることもできる。

 雨をもっと強くして溺れさせることだってできる。

 さあ、どうする?」

慧は首を振って言った。

「だめ!私にはその人の一生を奪う権利なんてない。」

「それなら、どうする?」

「力で抑え込むことは簡単だよ。

 でも、それは良くないことだよ。

 自分で大切なことに気がつけば行動はついてくる。

 だから、力で抑え込みたくはないよ。」

「ふふふっ。さすがに慧だね。

 少し眠りなさい。慧の望みを叶えるには

 力がいるから、貰うよ。」


「うん・・・。任せたよ・・・・・・・タカ・・・」

慧はそう言いながら素直に目を閉じた。

慧から金色の光が溢れ、その光は攻めていた紅龍皆を覆う。



それと同時に何個もの紅い玉が空に浮かび始めた。

それは、紅龍の玉。それがないと人になる。



「学びなさい・・・ここで、本当に大切なことを。」

そういう声が聞こえるとその中に緑ができ木が生い茂り

森ができた。

「学んだ暁には玉は戻るだろう。」

それと同時に静けさが戻った。

紅龍の軍の者は、何も無い森の中に取り残された。

「当主様?」側近の龍が騒ぐ。

紅龍の当主がいたところには誰もいなかった。






慧が、稲妻に打たれた時、銀の龍達は

本能的に慧のそばに行った。

しかし、慧はいない。


「上・・・」ルイがそう言って上を指差すと

金色の光に包まれた慧が空に浮いており眩しい光が溢れた。

その光は攻めてきた紅龍達を覆い金色のドームを作る。

皆はそれを呆然と見ていた。



光のドームはキラキラ光りながら壁を作り人が入れないようになっている。

銀の龍の後ろにはアルやカナンの姿も見えた。



光のドームができると慧は静かに降りてきた。

「ケイ?」ファルが不思議そうな顔をした。

雰囲気が慧のような感じではなかったからだ。

慧は目を開いて銀の龍に向かって言った。

「慧は、断続的に力を使わなくてはならないので

 眠りについている。

 今の金の龍・銀の龍は力不足だ。

 慧を取り戻したいならば、それぞれの当主と共に

 当主の墓に行きなさい。」


次に、アルの方に向かって言った。

「慧の銀龍になるのなら、こいつを連れてお前も墓に行くが良い。」

その言葉と同時に、地面に倒れている紅龍の当主が現れた。



アルは、黙って深々とお辞儀をすると当主を背負って龍の姿になって

消えた。

他の銀龍も一瞬顔を見合わせて頷き合うとそれぞれが龍となり別の方角に消えた。



慧は、そのまま目を閉じ再び宙に浮くと何も話さなくなった。

カナンは部下の紅龍に言った。

「我々は見守っていることしかできない。

 神官を呼んで、皆が祈りを捧げよう。

 子供たちもこちらへ集め、ナバラーンの歴史を

 誰もが見て、金の龍人の無事を祈ろう。」

紅龍は頷いて準備を始めた。




リューゼは、いつも慧と出会う白い空間にいた。

慧は目を閉じてすやすや眠っている。

「ケイ・・・。」リューゼは大切なものを扱うように慧を抱きあげ

そっと抱きしめた。

その時、ありえないことにこの空間に2人の男が現れた。

リューゼは驚いたようにその男達の顔を見つめた。




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