眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-5-

本文へジャンプ




「紅龍の軍隊は、こちらに向けて出発しはじめたようだ。」

その夜、そこの要塞で過ごそうとしてくつろいでいた時に

様子を見に行ったジークが言った。

「父上の書簡は届かなかったのでしょうか?」

「サイシュン、書簡は届いているはずだよ。

 使者の方と会って確認は取れているから。」

偵察に行って、要塞に来ていたジャンが言った。

「つまり、どうしてでもここの者を叩こうということなのだな。」

アハドが言う。



・・・私に何ができるだろうか?・・・

慧は暗い気持ちになりながら皆の話しを聞いていた。

サイシュンが心配して慧を抱きあげて背中をさすっているうちに

慧は眠ってしまった。


「疲れてたんだな。」すかさず、ジークがマントを脱いで慧に掛ける。

「本当は、ここから離れさせたいんだけどな。」アハドが慧の頭を撫でて言った。

「無理ですよ。」そう言いながらファルが入ってきた。

続いて、ニコライ、ルイも入ってくる。

「この子が本当にやりたいことを助けてやる。それが銀の龍の使命です。」

ニコライが微笑みながら言う。

「ただ、我々も心して守らねばならないだろう。」

ジークの言葉に皆が頷いた。





次の日の朝早く、アルが部屋に急いで入ってくると

起きていたジークに言った。

「すぐにここを出て、子供たちがいるキャンプの方に行って下さい。」



「その必要はないよ。」小さな声がベッドの上からした。

慧が起き上がりながら言った。

「ジーク、見に行く。」そう言うと慧の姿が急に見えなくなった。

見るとジークの姿もない。



「闇龍の術を使ったのですよ。」ファルが起きあがりながら言った。

「闇龍の術?」

「ケイはね。只、加護を受けるだけの龍人ではないんだよ。

 ケイは、加護龍の術や特技をちゃんと習得しているんだ。」ルイも起きあがりながら言う。

「でも、これは遊びじゃない。実際敵がすぐそこまで来ている。」アルはそう言うと部屋を出て行った。

「行こう。」アハドがそう言って後に続く





・・・・リーン・・・リーン・・・

「もう・・死んだ人が・・・ジーク・・早く。」

闇龍にとって、鈴のような音は死の音。

慧はその鈴の音の方へ行く。

「ひどい。」

慧が見たのは、倒れている紅龍。

向こうからたくさんの紅龍が押し寄せるように来る。

龍達は、龍型になり、武器みたいなものも持っている。



「こんなことは、リューゼは望んでいないのに」

慧は思わず、金の懐刀を出し握りしめる。

涙がぼろぼろこぼれる。

今この瞬間にも命が奪われる。

慧は大声で叫んだ。

「もう・・・やめろ〜〜。」



その声と一緒に持っていた刀が金色に光った。






・・・・力を望むのか?・・・・

急に刀から声が聞こえてきた。

・・・力?・・・

・・・ああ。力を望むならくれてやる。・・・

・・・どんな力?・・・

・・・お前が望む力を・・・望むか?・・・

・・・望む。強い力を・・・ナバラーンの民が幸せに暮らせる力を・・・

・・・わかった・・・



慧のかけていた闇龍の魔術が効かなくなったように

急に慧の姿が現れる。

それと同時に空がみるみるまに曇り大雨が降り始めた。

稲妻が落ち雷鳴も鳴り響く。



驚いた紅龍達はつい立ち止まって空を見あげた。

紅龍の地は、灼熱の地。そこに雨が降ることはない。

しかし、大雨が降り雷までもが鳴る。



「ケイ。」ジークが慧のそばに駆け寄った。

他の銀の龍たちも空を飛んで慧の元に向かう。

皆が慧のそばにもう少しでつきそうな時、

天から大きな稲妻が落ちる。



「ケイ・・・・!!!!」

銀の龍の声と同時に稲妻が落ち眩しい光で慧の姿が見えなくなった。





  BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2009 Jua Kagami all rights reserved.