眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-4-

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「ケイ、我が大叔父に会って下さい。」

アルは、戻ってきた慧にそう言った。

「大叔父ということは?」

「俺の祖父の末弟です。」

「アルの祖父・・・つまり、前当主の?」

「ええ。」

「行きましょう。ジーク、アハド、サイシュン。一緒に来て。

 ファルは病人を診て。ニコライとルイは子供達と話をして。

 ジャンは情報をお願い。」

それぞれが頷いて立ちあがった。


・・・ケイ、すっかり金の龍人の自覚が出来てきたのですね。・・・

ファルは、そう思いながら慧に言った。

「ケイ、気をつけて行ってください。」


慧は微笑んで頷くと、サイシュンが「失礼します。」と慧を抱き寄せた。

既にアルとアルの部下、ジークとアハドは龍になっている。

サイシュンは、そのまま龍になり静かに浮上するとあっという間に

東の空に消えた。



「さみしいですか?」ニコライがファルに言った。

「成長してくれなきゃ困るのですけどね。

 それでも、小さなケイの世界が私とその周りだけという時が

 懐かしくなることもありますね。」

ファルは東の空を見つめながらそう言った。




しばらく、飛ぶと要塞のようなものが見え、

アルはそこで一気に下降した。

アルを見て出てきた紅龍達は、闇龍・翠龍・白龍の姿に驚いたようだった。

皆が人型になるとサイシュンは優しく慧をおろした。



「ケイ、こちらへ。」

アルは、そう言うと要塞の中に入っていった。

要塞は、地上の部分より地下の部分が多くアルを先頭にして

ジーク・慧・サイシュン・アハドと続いた。



「何か、ここ広いね。」慧が緊張感なしに言う。

本来慧はどこか能天気な性格なのだ。

「ああ。元々ここは、地下に水源があったのだ。

 今は枯れているが。

 だから、ここは初代龍王の頃は地下都市として栄えていたんだ。」

「そうなんだ・・・。」

「しかし、今はこんな状態だから、大叔父上はここを改造したんだ。」

「ふーーん・・ここでかくれんぼしたら楽しいだろうな。」

慧はそう言って周りを見回した。

それを聞いてアルは脱力しそうになった。




奥の部屋に行くと、そこには大柄の紅龍の男がいた。

外見は40代後半くらいに見える。

慧の姿を見た男は目を細めた。

「アル、この子供が金の龍人なのか?」

「ええ。そうです。」

「初めまして。ケイと申します。」

慧はそう言って丁寧に礼をすると、男も優雅に立ちあがり

「我は、カナンと申す。生きているうちに金の龍人に会えるとは

 大変光栄です。」

「いえ、もう少し早く伺っていればと思いました。

 それで、お聞きしたいのですが、紅龍がこのような体制になったのは

 いつからなのでしょうか?」

「例の事件があってからだと記憶しております。」

「例の事件?」

「ああ。」カナンは椅子に座り慧達にも座るように椅子を指してから言った。

「我の年代で例の事件と言うのは前の龍王の花嫁と銀の龍が亡くなった事件です。」


「や・・・はりですか?」慧は眉を顰めながら言った。

「気づいていらっしゃったのか?」カナンは驚いたように言った。

「ええ。これと同じ現象が、紫龍の元にいた時あったのです。

 しかし、紫龍の当主自体もなぜそうしたか知らなかった。

 紫龍の当主は、前当主の意向を継いだに過ぎなかったのです。

 それは当然ですよね。自分達の生まれる前の出来事ですから・・・。」


「誰も真相を知っている者はいない。

 しかし、謎だけは残った。」カナンは呟くように話した。



「私が小さな時はこの国の龍はもっと優しさを知っていた。

 傷つくものを守る為に戦う。それが紅龍だと思い、私も

 紅龍であることを誇りに思っていた。

 しかし、事件が起こった。

 密室に花嫁と紫龍と紅龍の証だけが残った。

 そして、同時に全ての銀の龍がいなくなった。

 それだけは真実だ。しかし、何が起こったのか

 誰も知らない。

 花嫁と一緒の部屋で亡くなった紅龍は私の兄だ。

 それから、父は変わった。

 どんなことがあっても変わらぬ精神力を紅龍に望み、

 弱肉強食を推奨し、弱いものは切り捨てようとした。」


「そして、その気質は現当主に引き継がれたのですね。」

「ああ。その通りだ。」



「聞いてもよろしいですか?」珍しくジークが口を開いた。

「何かね?」

「なぜ、あなた方は反龍王派と言われているのですか?」

「ああ。それは簡単なことだ。

 厳密に言うと反龍王派という言葉は現当主がつけたのだがね。」



「どういうことなのですか?」

「龍王と当主が没する時、龍王は、セントミリュナンテで眠りにつき

 当主は、それぞれ当主の墓所で眠りにつくと言う。

 我は、父が墓に入ったのをこの目で見たのだが

 数日後開けてみると、空だった。

 本来、当主達の墓は顔を見えるように半分だけ開けておくのが

 しきたりだったが、父は影も形も無く、

 残っていたのは証と言える金の龍玉だけだったのだ。

 それで、我は現当主が目覚めたとき、そのことを聞きに行くと

 烈火のごとく怒り、我を反龍王派と呼んだのだ。

 そして、こうして当主の思ったとおりに動かない我が

 邪魔だったのだろう。」

「こんなこと・・・龍王は望んでいないのに・・・。」

慧はポロリと涙をこぼしてそう呟いた。






「当主様、白龍の当主様より書状がまいりました。」

威厳のある紅龍の男が紙を受け取ってその紙をビリビリと破り捨てた。

「当主様・・・?」

側近の龍が不思議そうに言った。

「金の龍人・・誘拐は間違いだったと?

 せっかく、カナンを叩く良い機会だったのに。」

「当主様、兵を引き上げさせましょうか?」

「ならぬ!予定通り、カナンを叩く。

 別の罪でも何でも擦り付けると良いだろう。」

「そうですね。」側近の龍と当主は目を合わせにやっと笑った。





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