眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-2-

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「ケイ様?起きられましたか?」

慧はトールの声で我に返った。

「ああ。トール。」



トールは慧の近くに小さなテーブルを置き

朝食を並べた。

美味しそうな果実水にカリカリのベーコンにサラダ

薄いパンが食欲をそそる。



「トールは何でここに来たの?」

慧は不思議そうに言った。

「私は、紫龍と紅龍の混血です。

 龍を決めるときに人の慰み者になりたくなくて

 紅龍になったのですが、武芸が強くない半端者なので

 アル兄様に助けられたのです。」

「アル兄様って、昨日の男の人?」

慧は、昨日の男を思い出しながら言った。

「ええ。血は繋がっておりません。

 でも、ここにいる者は皆が家族だと思っています。

 だから、アル兄様と呼んでいるのです。」



昨日の男、あきらかに紅龍の男は変わった男だった。

自分のことをアルと呼んでと言ったあと、男はこう言い放った。

「俺は、あなたをさらって来た人間だ。

 だから、明日1日ここの中を自分の目で見てほしい。

 そして聞きたいことがあれば、明日の夜話す。」

だから、慧は肝心なことを何一つ聞いていなかった。




慧は朝食を終えると、トールに頼んで建物の外に出た。

トールは慧にマントを羽織らせてくれた。

「昼は、大人はほとんどいないんだ。」

トールはそう言いながら、隣のテントを案内した。



そのテントには何人もの子供の姿があった。

「トール兄。」紅い髪をした子供がトールに嬉しそうにしがみついた。

トールは優しくその女の子を抱き寄せて頭を撫でた。

慧は、中にいた子供たちを見て違和感を感じた。

それは、どの子も足が無かったり手が無かったり、

顔に火傷の跡があったりと、障害を抱えていたからだ。



「お兄ちゃん?だあれ?新しいお兄ちゃん?」

女の子があどけなく聞いた。

慧は、しゃがんで女の子と目線を合わると微笑みながら言った。

「お兄ちゃんは、ケイと言うんだ。君の名前は?」

「ミニョン・・・」女の子も微笑みながら言う。

「そっか・・ミニョンちゃん、よろしくね。」

慧は女の子の頭を撫でながら言った。




それから慧は他のテントも案内してもらった。

武器の手入れをするテント。

紅龍の女達が鎧をつくっているテント。



最後に案内されたのが、病人用のテントだった。

慧は、そこのテントで薬草の調合や蒼の癒しの術を使い

病人を看病しはじめた。

ここの国にも病人を診る蒼龍は少なく、大概の者は薬草に頼る。

だから、傷は熱を持ち、痕も残ることが多いのだ。

病人も今まで見たこともない魔法を使う慧は文字通り

命の恩人だ。



だから、慧はいつものごとく力を使って、一区切りついた頃には

トールに支えられてようやく立っている状態だった。

「ケイ様?」トールは慧を支えながら慧のテントに連れてくると

ベッドに寝かしつけ毛布をかけてくれた。




慧が目を覚ますとアルが枕元に座っていた。

目が合うと、「ありがとう。皆を診てくれて。」とお礼を言った。

慧はベッドの上で起きあがりアルに言った。



「あの子供達、そして圧倒的に多い怪我人達はどうしてですか?

 皆、事故などではなく人為的にあのようなことになったと思うのですが。」

「全ては今の仕組みのせいだ。」

「仕組み?」

「現当主は、紅龍をより強い軍にしようと思った。

 だから、紅龍として生まれ紅龍として生きる者は

 小さなときから、その訓練をする。体術・剣術・馬術・戦法。」



「それが、あの子達とどう関係があるのですか?」

「紅龍にとって情けとは不必要なものだそうだ。

 だから、落ちこぼれた者は全て抹殺する。」

「殺す?どうして?」

「他に軍の機密を漏らさないため。

 そして、いつしかその殺す手段すらゲームのようになった。」



「ゲーム?」

「ああ、武道会で試合をする。

 そして、その試合でエリートと落ちこぼれを組み合わせ

 徹底的に嬲る。そこで死ぬものもいる。」

「そんな、馬鹿な。」

「ああ、馬鹿げていると俺も思う。でも、事実だ。

 俺は、試合の運営にも関わっているから

 命を助けれるものは、ここに連れてきて

 助けてきた。しかし、連れてきても助かるものは数名に過ぎない。

 そして、あの子供たちは、親がその試合で殺され

 別の紅龍に虐待された子だ。中には性的虐待もある。」

「ひどい。」



「ああ。ひどい話だ。それでも、ここでは日常だ。

 龍王は本当に平和を望んでいるのか?

 そこまで、軍隊を強くしなければならない理由があるのか?」

アルは、慧の肩を掴んで揺さぶった。


「俺は、いやだ・・そんな世界・・・嫌いだ。」

アルの言葉が慧の胸に突き刺さった。




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