眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-1-

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「ここは・・・?」




慧が目覚めたのは真っ暗な空間だった。

白龍の宮殿で鼻を何かで急に覆われて真っ暗になったことしか覚えていない。

「フィリオ・・・?」


小さく呼ぶがここには誰もいない。

目だけを動かすとどうやらここはテントのようなものの

ベッドらしい。

起きあがろうとしたが、体が揺れてまたベッドに倒れこんだ。



「目覚めましたか?」小さな声がした。

見ると、紅い髪をした子供が心配そうに慧を見つめ、

飲み物を差し出す。

慧が飲もうとためらっているのを察すると一口自分で飲んで見せていった。

「ここは暑くて乾燥しているので、水分をとらないとだめです。」

慧はゆっくりと口を開いた。

喉を潤す甘い果実水はとても美味しかった。

少年は、水差しから果実水を注ぐと、また一口飲んで見せて

慧に差し出した。



「私は、慧。君の名は?」

「僕はトールと言います。」

少年は、慧が果実水を飲むと毛布をかけながら言った。

「もう少しお休みになってください。

 起きあがった頃、説明致しますので。」

慧は言われたとおり目を閉じると再び眠りだした。




目を覚ますともう周りは暗かった。

テントにはランプがついている。

外からはざわざわと男の声が聞こえた。

「ああ。目が覚めたのですね。

 気分はどうですか?」

「う・・・ん、少しだるい感じ・・。」

トールは、慧の背中にクッションを入れ起きあがらせてくれた。

「じゃあ、アル兄さん呼んでくる。」




・・・俺・・誘拐されてきたんだよな・・一応・・・

慧は果実水を飲みながら思った。

鎖に繋がれているわけでもなければ

檻に入れられているわけでもない。

むしろ待遇が良い様な気さえする。



慧が1人で考えていると男がテントに入って来た。

「大きい・・。」慧は男ををみあげてのん気に言った。

真っ赤な髪に紅玉のような瞳をしていて、

鋭い目は猛禽類のようだ。



「まずは、手荒な真似をして悪かった。」

男はそう言いながら頭を下げた。

「今まで、何回か私をさらおうとしたのもあなた?」

慧は男を見つめて言った。

「ああ。私だ。」

男はベッドのそばの椅子に座りながら言った。



慧は、考えた。

自分は、今、金の龍人だ。自分をさらうということは

この男に並々ならぬ覚悟があったに違いない。

そして、この男は自分に危害を与えるつもりは無さそうなのだ。

「話・・・聞かせてもらおうか?」

そう話す慧は少年とは言えない強いまなざしで男は黙って頷いた。






「私は、少し慧の動きを待った方が良いと思います。」

ファルがそう言うとニコライとルイは驚いたようにファルを見つめた。

3人は、驚いたようにファルを見た。

「それは、どういうことですか?」

「ニコライ、私は慧がさらわれたという事に私は疑問を覚えるのです。」

「どういう疑問?」ルイが困惑しながら聞いた。

「もし、慧が邪魔な存在なら殺せばいいのです。

 しかし、相手は慧を誘拐することにこだわっているように思うのです。

 正直、今慧を誘拐しても何もメリットは無いはずなのに。」

「確かにそうですよね。むしろ、リスクの方が大きいように思います。」

ニコライが言うとルイも頷いた。



「それに、私は捕らわれた龍が龍の約束をしているのも不思議に思うのです。」

ナバラーンで最も拘束力が強い約束。

それが龍の約束なのだ。この約束を違えると死を待つのみ。

「たかが、と言ったら何なのですが、軍人が龍の約束するなんて聞いたことがありません。」

「龍の約束は生涯続きますからね。」ニコライもそう呟く。

「でも、僕は慧が心配だよ。」ルイは目を落として言った。

その時、廊下を走る音がしてサイシュンがバタンと扉を開け叫んだ。

「大変です。知らせを聞いた紅龍の当主が兵を挙げるそうです。」





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