眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-15-

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「ケイ、お茶が入りましたよ。」

ニコライが呼んだ。

「ニコライ、ありがとう。」

慧は、そう言いながらバルコニーから部屋に戻った。

「珍しいね。皆そろっている。」

慧は微笑みながら、いつもの席に座り

お茶を飲んだ。




「ケイと皆のおかげで全てが終わりました。

 ありがとうございます。」

サイシュンが言った。

「サイシュンお疲れ様です。

 本当に長かったですね。」

ニコライがサイシュンにお茶を差し出しながら言った。

「本当に皆様の協力の賜物です。」



リンエイはあれからすぐに全ての官職についている白龍に対し

面接を行い、悪事に加担していた者は全て処分を下した。

白龍には、真実の目という魔術があり、どんな嘘も見抜ける力を持っている。

リンエイを支えたのは、サイシュンや側近のユウシンだった。



リンエイは以前の制度そのものがこのような事件を生んだと反省し、

裁判の仕組みそのものを変え、死刑制度を廃止した。

なので、ナバラーンの最高刑は、龍の場合は龍の力封印の上終生幽閉、

人の場合は終生の幽閉になった。



そして、以前不当なことで牢に入れられた人や龍を解放し、

リャオテイにも人による自治区ができた。

そして、中央法によって奴隷制度が廃止され、学校制度が制定された。

鎖国状態に近かったリャオテイにも市場が開かれることになり

一気に活気づいた。

そして、今日、事件に関わる全ての裁判が終わったのだ。




「長かったよね。私も17歳になったし。」

「でもケイはちっちゃいけどね。」

ジャンが言うと慧はぷっと頬をふくらませた。


「そうそう。行動は小さなときから変わらないですしね。」ファルが微笑みながら言った。

「無謀・・・。」ジークはクッと笑いながら言った。

「ひどいよ。皆で・・・。」慧はそう言いながらクッキーをつまんだ。


確かに慧は17歳と思えない容姿だ。

いまだ、身長は伸びずにいて、太らない体質のせいかほっそりとしている。

毎日、アハドやジークに剣や体術を教えてもらっても

筋肉があまりつかない。

それでも、最近リューゼと定期的に会えるからか慧は

本当に幸せそうだった。



「あっ。そろそろ、リンエイのところに行かなきゃ。

 じゃあ、また夕食の時に・・・。」

慧はそう言って手をひらひら振ると部屋を出て行った。



「本当、ケイは、龍王様一筋ですね。」ニコライが微笑みながら言った。

「このまま幸せな顔でいてくれたらいいのにね。」

ルイが言うとジークとアハドが重い溜息をつき、

いつも陽気なジャンもうなだれた。



「シャードファイアで何か?」ファルが聞いた。

ジークとアハドとジャンは次に慧が目指す紅龍の国、

シャードファイアの情報を集めていたのだった。

「いやあ。本当のことを言うとケイをシャードファイアを

 行かせたくない。」

「それは、どういうことですか?ジャン?」

「紅龍は、今2つの派閥に分かれているんだ。」

「2つの派閥?」

「当主派と当主の叔父派と言われているが・・・。」

ジャンの後にアハドが続けて言った。

「裏では、龍王派と反龍王派と言われている。」

「何ですか?その反龍王派って。」ファルが驚いて言った。

「そこまではわからない。しかし、反龍王派が慧を狙っているのは確かだ。」

ジークが言った。



「それなら、慧をここに留まらせては?」サイシュンが言った。

「無理でしょうね。」ファルが言った。

「ああ。無理だな。」ジークが言う。

皆が溜息をつきながら頷いた。

「むしろ。ケイの性格なら喜んで誘拐されるかもしれない。」アハドが言った。



その時、扉が開いた。

「どうしましたか?お父様?」サイシュンが聞いた。

入ってきたのはリンエイだった。

「おかしいな・・・。ケイがまだ来ていないのだが。」

ジークとアハドが立ちあがって廊下に駆けていく。

ジークは中庭の近くで倒れているフィリオを見つけた。



「ケイ!ケイ。」アハドは慧の名前を叫び続けた。






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