眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-14-

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銀の龍たちは慧の叫び声を聞いて

急いで廊下に出てきて息をのんだ。



慧をかばうように慧を抱きしめるサイシュン

その背中に突き刺さろうとしている銀色のナイフ。

しかし、そのナイフがサイシュンに突き刺さることはなかった。



「化け物・・・・。」

ライロンは突き刺さらないナイフを見て腰を抜かした。

よく見るとナイフの先が折れ曲がっている。

すかさず、白龍の兵によってライロンは連れて行かれた。



「サイシュン?」

慧はサイシュンを驚いて見あげた。

サイシュン自身も何があったかわからないように戸惑った顔をした。

「確かに・・ナイフを刺された感じはあったのですが・・・。」



ファルがサイシュンの肩に手をやって言った。

「とにかく、部屋に行きましょう。」

部屋に戻るとサイシュンは、服をたくしあげて

ナイフの刺されていたあたりを見てみた。

そこはやはり傷ひとつなく、不思議なことに腰の黒かった刺青が

銀色に光っている。



「これは・・・?」

ファルがその刺青に手を這わせる。

医者でもあるファルは手を這わせることによって

状況を把握することができるのだ。

「ちょっと魔力出して見てください。」

ファルが言うとサイシュンは少し魔力を出した。

ファルは背中の方まで手を這わせていった。

「ああ。」ファルが納得したように頷き、皆に座るように言った。



「ファル、サイシュンは大丈夫?」

慧が心配そうに言った。

「ええ。大丈夫です。サイシュンの刺青はただの刺青ではないのですよ。」

ファルは優しい顔をして言った。

「ただの刺青ではないとは?」サイシュンも驚いた顔をする。

「魔力をこめた時、あなたの刺青は全身に広がり硬くなるようです。

 要するに、天然の鎧を着ている状態と言う事でしょうか?」

「天然の鎧?なぜ。」

「それは、サイシュンがケイを守りたいと願ったからだと思います。」

ファルが静かにそう言った。



サイシュンは涙をこぼしてケイの手を握った。

「ケイ。私は・・・この刺青を忌まわしいものだと思っておりました。

 私が銀の龍にふさわしいかどうか、ずっと不安でした。

 でも、この刺青に今なら感謝できます。

 この刺青があなたを守ることができるのなら私は

 いままでの自分の人生すら有意義なものだと思えるのです。」



ケイは黙ってサイシュンの頭を引き寄せた。

「サイシュン、私にもサイシュンを守らせてほしい。

 私はね。リューゼほど心からナバラーンの全てを愛するなんて

 言えない。それでも、今まで出会った方や大切に思える

 方々を愛している。そして、この世界に私は孤独な存在だけど

 銀の龍達や当主様、龍王は私の家族だと思っているんだ。

 だから、家族を守りたいという気持ちは私も同じなんだ。

 これから、一緒に幸せ作ろう。」


サイシュンは小さな慧の腕の中で泣き続けた。

その腕はとても細かったけれど、とても暖かかった。





それから少しするとリンエイが来て慧に謝った。

慧はにっこり微笑むとリンエイに言った。

「私は、膝で一寝させてもらえればそれで嬉しいのですが・・・

 謝罪はむしろサイシュンにしてくださいね。」

「ありがとう。さあ、こちらへ。」

リンエイの腕に抱かれ肩にもたれてしばらくすると慧は眠りはじめた。







「慧・・・久しぶりだったね。」

慧はリューゼの膝の上で目覚めた。

「リューゼ。」

慧はリューゼにキスをして胸に顔をすりつけた。

「慧・・・・?」

リューゼは不思議そうに言うと慧は顔をあげてにかっと笑って言った。

「リューゼ充電中。」


寂しかったのだ。本当に。

リューゼに会いたかったのだ。


「慧・・・ここは2人だけだから良いんだよ。」

リューゼはそう言いながら慧の背中を撫でる。

「だめだよ・・・リューゼには俺の笑顔を見せるって決めてるんだから。」

「こうすれば、見えないだろう?」



リューゼは優しく慧を抱きしめた。

「リューゼ、かっこよすぎるよ。何だか・・俺子供みたいじゃん。」

慧はそう言いながら泣きはじめた。

リューゼは優しく慧の背中を撫でていた。




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