眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-13-

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「あっちだ。」

慧は迷いもなく歩き続けた。

大きな建物に入り階段を下り、奥の方へ足を進める。

扉の前にいた白龍は、怯えたように慧を見つめ

静かに扉を開いた。



扉が開くとそこには円形の広場があった。

真ん中に少し高い台があり、その周りに豪華な椅子が何脚も置かれており

身なりの良い人が何人も座っている。

そして、驚いたことにその円形の広場を囲むように

牢が並んでいた。


見あげると5階くらいの高さまである。

身なりの良い人たちは弾けたように立ちあがり呆然と突然の侵入者を見つめた。



慧がここに来たとき見かけた白龍の男達が立ちあがり大きな声で言った。

「なんなんだ?お前達は?」

脇の若い白龍の男が慧の後ろのサイシュンに気がついて言った。

「お前は・・なぜ?」

「奴隷販売は、当主命令で禁止されているはずです。」

慧が静かにそう言った。

「うるさい・・あんな命令・・・。そうだ。お前はあの時塔に閉じ込めた小僧だな。

 忌々しい・・・。

 おい、誰かこいつを牢に。」

牢の側にいた兵がこちらに来ると


ジークが「黙れ。お前らに我らを捕らえる資格はない。」と怒鳴った。

「資格が・・ないとは・・・。」若い男が呟いた。

「白龍の目は腐っているのか?我らの髪を見て何も思わないのか?」



皆は、いまさら気づいたように銀の龍達の髪を見つめて声を失った。

「花嫁様・・・?」誰かが呟いた。

「うるさい・・ここで、白龍の名を汚すことができようか?

 こいつらを殺してしまえ。」

大きな声で白龍の男が言って合図をした。

しかし、慧たちの声が届いていた者は誰も動かなかった。

ただ、牢の上のほうに待機していた兵は慧たちの声が聞こえてなかった。



だから、慧達に向けて弓をひいた。

誰かの金切り声と一緒に多くの矢が慧達を襲った。

しかし、その矢は誰にも当たることは無かった。

慧達の周りが銀色に光り矢が全て吸収されて消えたのだ。



その時扉の周辺がざわめくと何人もの兵が中に入ってきた。

先頭の威厳のある白龍が大きな声で言った。

「私は白龍の当主命令に背いて奴隷市場を開催した者の確保に来た。

 神妙にしろ。」

その白龍は、奴隷市場の主催者や奴隷商人を捕らえた。



そして、奴隷として競りにかけられそうになった人を保護して

温かい食事と寝床を提供した。

慧は「良かった。」と小さく呟いた。




慧は銀の龍達に護られながらその足で白龍の宮殿に行った。

白龍の宮殿の近くに行くと、ジークとアハドは再び先ほどの施設に戻った。

「まだ、首謀者がはっきりと特定できてないので静かに入りましょう。」

とファルは言い、そっと宮殿の裏口から中に入った。



ルイの案内で浴室に入り、一緒にお風呂に浸かった後、

寝室に案内された。

寝室で、ファル特製の薬湯を飲むとベッドに入った。

部屋の中には、ニコライとジャンとサイシュンもいた。

「ケイ・・素敵な夢路を。」



ファルはそう言いながら癒しの魔法を唱えた。

慧は嬉しそうに微笑みながら眠りについた。

銀の龍達はそこで話をしながら夜を明かした。

夜明け前、ジークとアハドがそっと部屋に入ってきた。

その顔を見ただけで他の銀の龍は満足そうな顔をした。




次の朝、白龍の当主リンエイは、いつものように

主な側近達と会議を開いた。

その席上で、収容所で行われた人身売買についての話が出ると

側近達の中には青白い顔をするものもいた。



「リンエイ様。それをあきらかにすると白龍の威厳に関わります。」

緊張した面持ちでライロンが言った。

「白龍の威厳なんて、この際どうでもよい。

 大切なのは、我々が過ちを認めてあるべき姿に戻ることだ。

 リュウエン、ライロン、お前達も自らの行動を省みることだ。」

リンエイが言うとリュウエンは真っ赤になりながら怒鳴った。

「リンエイ様。いくらなんでもそんな濡れ衣を着せるなんて。」

リンエイはばっさりと書類の束をテーブルの上に広げて言った。

「これは、お前達2人の悪事の証拠だ。」



リュウエンはその書類を見て崩れ落ちたように膝をついた。

しかし、ライロンは拳を握り締めて言った。

「すべては、あの龍達が仕組んだのですね。」

そう言うと逃げるように扉を押し廊下を走っていった。

白龍の兵がその後を追う。



慧は、寝汗をかいたので浴室でシャワーを浴び部屋に戻ろうと

廊下を歩いていた。隣には護衛のためにサイシュンがいた。

「何か久しぶりにゆったりした朝だね。」慧はサイシュンを見あげて言うと

サイシュンも微笑んで頷いた。



その時、廊下の向こうから髪を振り乱した男が走って来た。

次の瞬間、慧はサイシュンにしっかりと抱きしめられた。

「お前がいなければ。死ね〜〜」

男は懐から銀のナイフを取り出しそのまま振りかぶった。

「やめろ〜〜〜!」

慧は大きな声で叫んだ。




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