眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-12-

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次の日、日が暮れてから慧はサイシュンをみあげた。

「サイシュン、もう一度聞く。一緒に来てくれるかい?」

サイシュンは微笑んで言った。

「喜んで。私の全てをあなたに。」

サイシュンは跪いて中世の騎士がするように慧の手の甲にキスを落とした。




慧はフィリオに乗り塔の外に出ると、

「銀の龍達よ。来て。」

と静かに言った。

すると次の瞬間慧の周りにはおなじみの銀の龍達が微笑んで立っていた。

「ケイ。」

いきなり抱きついてきたのはルイだ。

「ルイ。心配かけたね。」慧が言うとルイは首を振って言った。

「ううん。元気そうで良かった。」



アハドとジークは協力して塔の重い閂を動かして外した。

次に慧が塔の入り口のノブを回しながら心で強く唱えた。

「開け!」

塔の入り口は簡単に開いた。


サイシュン達が塔の外に出るとニコライとファルが

荷物を差し出して言った。

「新しい服に着替えてください。」



そして、サイシュンの周りに銀の龍達は集まった。

「歓迎する。」ジークが手を差し出して言った。

サイシュンは皆を見回してジークの手をしっかりと握って言った。

「よろしくお願いいたします。」

慧は嬉しそうにその光景を見つめていた。




「まだ、時間があるからね。」ジャンはそう言いながら

皆に食事を勧めた。

そこには、お弁当と温かいスープが置いてあった。

塔の中にいた者は嬉しくて涙を零しながらそのスープを飲んだ。

温かい食べ物は本当に久しぶりだったからだ。



慧はおなかいっぱいになるとアハドにもたれながら眠り始めた。

その間中、ファルはサイシュンと話をしていた。

食事が終わるとジャンとジークは塔にいた者を安全な場所に案内し、

ルイは、簡単に食事の後片付けをはじめた。

塔にいた者は初めは自分達も一緒に行くと言ったが

サイシュンが大丈夫だからと説得したので事態が終結するまで

安全な場所で隠れていることにしたようだ。





慧は、肩を揺らされてぼんやりと目を開けた。

「ケイ・・そろそろ・・時間ですよ。」

「う・・・ん?ファル?」

慧はそう言うとぱっと目を覚ました。

目を覚ますと慧は嬉しそうに周りを見た。

「やっぱりみんないると嬉しいな。」

慧はそう言いながら、起きあがった。


銀の龍達にとってそれ以上に嬉しい言葉はない。

皆も知らず知らずのうちに微笑みを浮かべていた。



「今回は私たちにケイ様を守らせてください。」

「ニコライ、どういう事?」

「銀の龍の力を今夜ケイに見せたいと思いまして。

 古い文献に記述がありまして研究したのです。

 今回、ケイも狙われる可能性があるので。」



ファルが静かに言うと、他の銀の龍達は、慧を囲んだ。

慧の斜め右前にアハド、斜め左前にジーク、

慧のすぐ右横にルイ、左横にニコライ

右後ろにファル、真後ろにサイシュン、左後ろにジャンが立った。


「我らのすべて。我らの理。我らの命。我らの唯一。

 銀の龍が守るべきものは汝だけ。

 汝を害する全ての悪、全ての障害、全ての呪い。

 我らの銀の龍の力、絆、誓いの全てをかけ、

 それを拒絶する。」

そう皆が唱えると銀色の光が皆を包み、

皆の髪の毛が銀色に光り銀色のドームが皆を包んだ。

その銀色のドームは次第に透明になりついには光が消えた。



慧は驚いて皆を見回した。皆は慧に優しく微笑みかける。

「ありがとう。一緒に行こう!」

慧が歩き出すと皆が歩調を合わせた。

慧達は、堂々と敷地を歩いていた。



見張りの紅龍や白龍は慧達の姿を見ると次々に膝を折ってひれ伏した。

銀色の龍が大切に護っている者はまだ少年のようにほっそりとして

小さかったが凛としているその雰囲気に頭をさげずにはいられなかった。



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