眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-11-

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「サイシュン。私は明日この塔を出ようと思う。

 一緒に来てくれない?

塔に戻った慧はそう言いながらベッドに腰をおろした。


「わかりました。御伴いたします。」

そう答えるサイシュンはどこか不安げだ。

「サイシュン、大丈夫。この塔の人たちの心配をしているのでしょう?

 皆一緒にここを出るよ。」

サイシュンは驚いたように慧を見つめた。

「それでも、私は龍王の理を外れたもの。でも・・・。」

「それは、サイシュンが理をはずすと良い。」



慧は微笑みながら答えた。

「それはどういう?」

「私もね。銀の龍のことについては詳しくないのだけど、

 フィリオにね。蒼の銀龍に話を聞いてきてもらったんだ。

 そしたらね。結構問題は簡単に解決できることがわかった。」

「簡単にって。」


慧は説明しはじめた。

「ファルの言葉を借りると、

 銀の龍はそのままでも結構忙しいのです。

 花嫁の為の活動や、自分自身の修行など、

 その龍によって内容は違いますが、

 日々の業務は山ほどあるのです。あのサボりたがりのジャンですら。

 (あっ。ジャンは銀の黄龍ねぇ。)

 そしてよりにもよって、私の守る花嫁は銀の龍を酷使するのが

 趣味のような方で(それは無いけれど・・)

 それ以上に無謀なことを仕出かし、心労も積もる一方なので

 とても1人で業務を遂行するわけにはいかないのです。

 (え・・・心配かけてるのわかるけど無謀じゃないよ。)

 なので、私たちの業務がすんなり遂行できるために

 銀の眷龍がおります。

 銀の眷龍は、龍王の理をはずれ、銀の龍に忠誠を誓うことで

 花嫁から祝福と力を貰います。

 その銀の眷龍は、特に同種の龍と決まっているわけではなく

 銀の龍に忠誠を誓えるものであればなることができます。

 ちなみに現銀龍で一番眷龍を持っているのは

 黄龍で100人ほど、一番持っていないのは闇龍で10人です。」

「つまり、ここの塔の者を眷龍にすれば良いと?」



慧は頷いて言った。

「そして明日、奴隷市場を取り締まる。」

「取り締まるって、どういうことです?」

「恐らく、今日白龍の当主は当主命令として奴隷販売の禁止を出す。

 確かに当主命令は効力が薄いけれど取り締まることはできるはずだよ。」

「でも、どうやって?ここの兵は全て息がかかっているはずですよ。」

「それは大丈夫だよ。ということで、サイシュン寝ている間に眷龍の件

 よろしくねぇ。」

慧はそう言いながら横になると毛布を被った。

サイシュンは、慧をしばらく見つめていたが立ちあがり

部屋を出て行った。




白龍の当主リンエイは、朝食後会議を開きそこで宣言をした。

「わが国でも他の国にならい、奴隷販売を禁止する政令をだそうと思う。

 そして、私個人としても中央法にこれを制定できるように動こうと思う。」

リンエイがそう言うと部屋の中が騒がしくなった。


「お待ちください。リンエイ様。それは、本当ですか?」

「ああ。ライロン、何か不満があるのか?」

「リンエイ様、そう言う当主命令は少なくても私たち側近に話を通してください。」

「リュウエン、お前も何か不都合があるのか?」

リンエイが鋭く聞くと2人は慌てて

「めっそうもございません。」と言った。


「私は、支持いたします。」言葉少なく言ったのは

ユウシンと言うもう1人の側近だ。

リュウエンとライロンは一瞬ユウシンを睨んだがリンエイの目線に気づいて

目をそらした。


その後、ユウシンは、落ちつかなそうに廊下を歩いていた。

「ユウシン様?」

振り向くと桜色の髪をした若者だった。

「何か?」ユウシンは低い声で言った。

「まずは、ご安心を。サイシュン様の刑は休止されました。」

「なんですと?休止とは?」

ユウシンは驚いたように言った。

サイシュンはユウシンの弟子で一番可愛がっていた存在だった。

なので、サイシュンの事件がありユウシンの力も

かなり弱まったのだ。

そして、ユウシンはサイシュンの裁判に疑問を持っていた。

しかし、自分にはかけがえの無い弟子がまだいる。

だから、そのことに触れないように生きてきたのだ。



「サイシュン様とその部下の方は毎日勉学に励んでいるそうですよ。」

「勉学に?」

「ええ。さすがは貴方の弟子ですね。これで、貴方のすべきこと見えませんか?」

ニコライはそう言いながら微笑んで続けた。

「できたら、白龍自身で正しい道に導いてほしいですね。」

ユウシンははっとした顔をしてニコライを見た。

もう恐れることはない。ユウシンは覚悟を決めたようだ。

「失礼する。」ユウシンはそう言って廊下を去って行った。

その姿は会った時のように猫背ではなく背中がピンと伸びていた。




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