眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-10-

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「今日は、賢者のファルム様とお話をさせていただいて本当にうれしゅうございました。」

「いえ。いえ。ライロン様、私もいろいろとお話できて嬉しく思っておりますよ。

 ああ、そういえば、今回私と一緒にこの国を訪れている

 友人は、素晴らしい歌を歌うのですよ。」

ファルがそう言うと壮年の男は嬉しそうに言った。


「賢者様がそうおっしゃるのなら是非拝聴したいものですな。

 そうだ。明日の午後にでもお茶にいらっしゃいませんか?」

「ええ。それでは、また明日参りますね。」

「賢者様、馬車で送らせてください。」

「いいえ。見聞を少しでも広げるために自分の足で歩きたいのです。

 お気持ちだけ戴いておきますね。」



ファルはにっこりと微笑んで会釈をすると、広い大通りを歩き、

小さな茶店に入っていった。そこには、ジャンとルイが待っていた。



「ファル、お疲れ様です。」ルイが言うとファルはどっかりと椅子に座りながら言った。

「まったくですよ。何が賢者様ですか?

 私だってもう少し賢い人と話したいものです。」

「それで、ファル?どうなった?」ジャンが聞く。

「明日、ルイとお茶に招待されましたよ。」

「じゃあ、ルイ。明日は頼むな。」ジャンがにこやかに言うとルイは黙って頷いた。

「まったく、私がお膳立てしたのですから、せいぜい頑張ってくださいよ。」

ファルはそう言いながら紅茶を飲んだ。




「まったくこれは、ゴミだめのようですね。」

ニコライはそう言いながら、

一応棚のようになっているところから慎重に書類を引っ張り出した。


ここは、白龍の宮殿の地下にある裁判の資料室の1室である。

ナバラーンの裁判は1回で終わってしまうので資料はただ山積みにされている状態で

整理する者もいない。

白龍も1日の終わりに書類を持って来るだけなので昼は誰もここには来ない。

とにかく、この量の書類から求める書類を捜すのは困難を極めた。

初日にはジャンにも手伝ってもらったが、この根気のいる作業に

ジャンがついていけなくなり、ニコライ1人で資料室にこもっているのだった。

「ありました。」

ニコライは、冊子になっている書類をひっぱり出して言った。

その表紙には「サイシュン・ルー・ハーリュ 裁判記録」と載っていた。

ニコライはその書類と別の書類を数冊抱えると資料室を後にした。





「ここで、最後だな。」アハドとジークは硬く閉ざされた門の前にいた。

「ああ。アオシン・レー・ハーリュの邸だな。」アハドはそう言う。

2人は顔を見合わせると一瞬で塀を飛び越え、邸の中に入る。

「だいぶ、荒らされているな。」ジークがそう言いながら周りを見渡した。

「罪人が出ると、家族や使用人も身を隠すことが多いならな。

 しかし・・やりきれないな。これは・・。」アハドはそう言いながら

邸の扉を開けた。



2人はそのまま地下室に入っていった。

地下室の石を慎重に調べ、ある石をはがし土を掘った。

すると、土の中から箱が出てきた。

その箱を開けるとその中にはいろいろな書類が出てきた。

2人はその書類を全て麻袋に入れるとまた蓋をして元に戻し、

静かにその邸をあとにした。







「ケイ、気をつけて。」

サイシュンはフィリオにまたがる慧にそう言った。

「大丈夫だよ。サイシュン。先に休んで。」

慧は微笑んでみせてそう言った。

「わかったよ。」サイシュンはそう答えたが

慧が帰って来るまで起きて待っているのは確かだ。

「絶対だよ。」慧はそう言って塔の窓から外に出た。

フィリオは慧を乗せ、人が投獄されている建物に近寄った。



慧はそこで闇龍の術を使い中に入っていった。

そこには、慧がここに来たときに見た壮年の白龍と若い白龍がいた。

値踏みするように檻に入れられた人を見て歩いている。

「今回は、若い者が多いようですね。所長。」

若い白龍が壮年の白龍に言う。

「ああ。市は明後日だから、明日は見栄えの良いようにせいぜい磨いてやれ。」

所長と呼ばれた白龍が言うと看守が頷いた。



慧はその2人の後を追った。

豪華な部屋に入ると所長はキャビネットからグラスを取り出し酒を注ぐと

若い白龍に渡した。

「さて、市の前祝といこうか。」

「そうですね。」

2人はカチンとグラスを合わせた。

「まったく、やめられないよ。この仕事は・・・。」

所長が言うと若い白龍も言った。

「そうですよね。何せ上にはライロン様がついているのですからね。」







リンエイは、鏡でその様子を見て息をのんだ。

「まさか・・ライロンって・・。」

それは、リンエイの側近の1人の名だった。

「それでも、まだ動かないほうがよいと思います。」

ジャンがそう言うとリンエイは目を細めて言った。

「他にも何かあるのか?」

「ええ。たぶん、明日中にでも証拠揃いますよ。」

ジャンはそう言いながらニヤッと笑った。




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