眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-9-

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その夜、慧はフィリオの背に乗って塔の外に出た。

慧の姿は念の為に闇龍の魔法で見えないようにしている。

「うーーん。久しぶりの外だぁ。」



慧はそう言いながら伸びをすると、そっと念じた。

「ジーク。来て。」

そう言いながら、静かに結界を張る。

すると、その結界の中に光があふれジークが立っていた。



ジークは慧をぎゅっと抱きしめて言った。

「ケイ、良かった。体は大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ。」

慧はジークに今までの話をした。

同時にジークが他の銀の龍にその内容を伝える。

銀の龍はお互いに離れていても会話ができるのだ。

そして、同時にその内容はジャンの鏡を見ている

白龍の当主であるリンエイにも伝わった。



全て話し終わると、慧は更に続けた。

「ジーク、サイシュンの事は1人や2人が絡んだことではないと思う。

 白龍の中でかなり組織的に私腹を肥やしているものがいるはずだよ。

 そして、その中には間違いなく力を持っている者もいるはずだよ。」

「そうだろうな。」

「今、事を公にすると、全ての変革はかなわないと思う。

 結局、現場で携わった者が出てくるだけだ。

 だから、銀の龍に動いてもらいたい。

 とにかく、証拠を集めなくては・・・。

 私も夜はここで、動こうと思う。

 たぶん、ジャンが鏡で見ていてくれるはずだから。」

「そうか。ただし、ケイ。これだけは約束してくれ。」


「「くれぐれも危険なことはしないように。」」

「でしょ?」慧は首をかしげながら言った。

「ああ。でもその約束をいつも破られているからな。」


ジークが目を細めて言うと慧は小さく微笑みながら言った。

「ごめん。でも、いつもジーク達が助けてくれるでしょう?」

「そうできないことも、あったはずだが・・・。」

ジークは目を細めて言った。

「善処・・いたします。」

慧は神妙に言った。


ジークは、慧と話をすると黒豹になり森に消えた。

ここで龍の姿で飛び出すとめだつからだ。



夜が明ける前にどこかの森から闇に紛れるようにアハドのところへ行くのだろう。

慧は再びフィリオに乗せてもらい塔の中に戻るとサイシュンが起きて待っていた。

「サイシュン、寝ていてもいいのに・・。」

「いいえ。私たちの為にケイが動いているのに寝るわけにはいかないですよ。」

サイシュンはそう言いながらケイを寝台に寝かせ毛布をかけてやった。



慧が来てから劇的にこの塔の生活は快適になった。

元々は硬い石の寝台があった所が、ふかふかの藁が敷かれ

敷布がかかっている、上に掛ける物も、ぼろ布が毛布になっていた。

昼間は暑くてどうしようもない塔の中も

多量の冷蔵石で適温に保たれている。

夜は寒くて凍えるようだったのも温蔵石と毛布であたたかい。

そして、数々の拷問などで痛んだ体も

慧が蒼の魔術で癒してくれたおかげで皆が健康になっている。

そして、毎日新鮮な果物や野菜や時にはハムなどもあり

飢えることも無くなった。

それは全て鳥やフィリオが持ってきてくれる。

龍王の花嫁で恐れ多いと思っていたサイシュン達も

くったくのない笑顔で接してくる慧に親近感を覚え

皆慧が大好きになった。



慧は少し寝て目を覚ますと、果物とサラダを食べ

サイシュンにナバラーンの法律や裁判の仕組みを教えてもらう。

・・・昔は政治経済って嫌いだったんだよなあ・・・

慧は遠い目で高校時代を回想して思った。



慧は基本的な知識を吸収するとサイシュンに言った。

「ねえ、こんなに塔に人がいるんだから模擬裁判とかしない?」

確かにこの塔は暇を持て余した白龍がいる。

慧の意見はすんなり通り、次の日から模擬裁判が狭い塔の一室で行われた。

これは塔の白龍達に好評で模擬裁判の後には

果物を食べながら熱い議論が交わされた。




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