眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-14-

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「もう少しで私が眠って99年になる。

 蒼龍の当主がおふれを出すだろう。」

リューゼの膝の上でくつろいでいた慧は

リューゼの頬に手をやって言った。


「そっか・・じゃあ、また会えなくなるね。」

「そうだな。それでも次にこの腕に慧を抱きしめた時は

 もう離さない。」

リューゼはそう言いながら慧をぎゅっと抱きしめた。



「そうだね。さあ、もうひと頑張りしましょうか?」

慧はにこやかに微笑んで言うと、

リューゼは慧の顔にキスを落としながら言った。

「会えなくても、いつでも私はそばにいるよ。」

その時、後ろに引っ張られるような気がした。



慧は精一杯の笑顔を作って言った。

「大好きだよ。リューゼ。」





「涙・・・か。」

ガイは、大きな指で慧の目元をぬぐった。

それと同時に慧はゆっくり目を覚ました。

「お帰り。おちびちゃん。」

「おちびちゃんって、年じゃないよ。」

慧は頬を膨らませてガイの膝から降りた。



砂漠での出来事があってから、すぐに慧は皆と

紅龍の城に来た。

やることは山積みで、新しい軍の体制づくり、

体に障害を持った者への対応、

砂漠の緑地化など、紅龍だけでできないプロジェクトも

銀の龍達の助力で動き始めた。



銀の龍達はその他にもいろいろな仕事を抱え動いている。

慧も会議などには出席するが、実質動くことは少ないので

規則正しい毎日を送っている。



そのお陰で、19歳になった慧は少しだけ身長が伸びて

165センチくらいになった。

それでも、小柄と言われている紫龍のルイにも身長が追いつかないのが

寂しかったりする。

特に紅龍は、人型でも大きな人が多く、19歳になった今でも

あだ名がおちびちゃんだ。


ガイは、慧の体が華奢なのを気にして

頻繁に狩りで獲物をしとめてくるが、それでも慧は太れない体質らしい。




「ガイ、聞きたいことがあるんだけど。」

「ケイ、どうした?」

いつもなら、お礼を言ってすぐに出て行くが珍しいこともあるものだとガイは思った。



「龍王の直轄地、ナバラデルトの話を聞きたい。

 何で、周りを紅龍の国シャードファイアが囲んでいるの?」

「ああ、紅龍の一番の仕事が龍王を守ること。だから、紅龍の国を通る

 身元がはっきりしたものしかナバラデルトに入れないようにしたのがはじまりだ。」

「うん・・それはわかるけれど・・・、

 他の当主に聞いてもナバラデルトのこと知らないのが不思議だったんだ。」

「ああ。ナバラデルトをきちんと把握している当主はあまりいないからな。

 俺も、軍用以外はめったに行かないし。」

「どういうことなの?」

「ナバラデルトは、元々龍王が人を守るという目的で作った都市だったんだ。

 だから、龍よりも龍人や人の数の方が多い。

 そして、龍も城に仕える者しかいないからかなり閉ざされた世界なんだ。」


「えっ。でもガイ達は小さな時ナバラデルトで暮らしていたんでしょ?」

「ああ。しかし、私達が暮らしていたのは王宮の一部だけだ。

 それでも、私達は父王の決断で父王と前当主に育てられた。

 それに龍王と当主が逝去するまでは次期龍王と次期当主の

 顔は世間に公開することは無い。」



「そうなんだ。それで、貴族って何?」

「ナバラデルトは確かに龍王の直轄地ではあるが

 龍王が政治を直接行っているわけではないんだ。

 その政治を行っているのが貴族だ。

 ナバラデルトの貴族は、貴人だと言うのが彼らの

 自慢なんだ。」

「何?貴人って?」

「要するに、異世界の人間の純血だということだ。

 だから、龍王の花嫁になれると考えているし

 実際そうなってきたんだ。」

「そうなんだ。」


慧はガイにお礼を言って、部屋を後にした。

慧は、ずっと何か考え込んでいた。






数日後、蒼龍の当主からおふれが出た。




「王に全てを差し出し、王の全てを貰いたい者は

 王の城に集まるように。」




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