眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-13-

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慧は、当主達や銀の龍からこれまでの話を聞いて「心配かけてごめんね。」

と言うと話し始めた。


「私は、力が欲しい。あまり犠牲が出ない方法で戦を止めることができたら

 どんなに良いかと願ったんだ。

 そして願いは届いた。願いを聞いてくれたのは初代龍王。」


「あの・・方が・・・?」

唯一初代龍王と会ったことのあるニコライが呟くように言った。

「そして、龍王と私は初代龍王の力を全て受け継ぐ者として選ばれた。

 時期は、龍王の戴冠日。つまり婚礼の日となるそうだ。

 そして、初代龍王とその妃は考えた。

 龍王と私に力が受け継がれれば、当主と銀の龍の力も強くなる。

 その力は強大が故に強い各龍としての資質、精神力が必要だ。

 だから、初代の当主達、代々の銀の龍で最も力の強い龍が

 納得いくまで教育をすることにした。」


「だから、龍によって時が変わるのですね。」ファルが言った。

皆が納得した。龍の資質はもとより、当主と銀の龍の絆も強まったことを

実感していた。



そして、同時に授かる力の大きさに相当の覚悟が必要だと悟った。

「皆の気持ちが大切だと私は思うんだ。

 ナバラーンを幸せの大地にしたいという気持ち。

 それがあれば覚悟なんて必要ないよ。」

皆の気持ちがわかったようににこやかに微笑みながら言う慧を見て

ああ、この子はもうとっくの昔に覚悟を決めているんだなと皆が思った。



その夜、慧は天幕の外で空を見あげていた。

宴を途中で抜けて来たのだ。


「北斗七星も北極星も無いけれど、星が綺麗だな。」

そう呟いた。

「ここにいたのか?」

アルが慧の隣に座って夜空を見あげた。

「うん。この世界の星も美しいなと思って。」

「そうだな。」



「あのね。私の住んでいた世界には龍がいなかったんだよ。

 それでも、ここと同じように太陽も月も星もあったんだ。」

「そうか・・・戦は?」

「悲しいことにあったよ。

 私は直接体験したわけではなくて、

 テレビといって遠くであった出来事をみる機械があって

 それを通して知っているだけだった。」

「そうか。」

「だからね、ナバラーンで戸惑ったことは多かった。

 でも、今はナバラーンが大好きだよ。

 もう少しで大好きな人に会えるしね。」

慧はそう言って微笑んだ。



「ケイ、ありがとう。」

アルがそう言いながら頭を下げた。

「どうして?」

「ケイのお陰で犠牲を出すことなく戦が終わった。

 そして、龍の約束という意味だけでなく

 私が自ら欲して銀の龍になりたいんだ。」


アルがそう言いながら跪いた。

慧はそのまま静かに立ちあがった。


「我の真名は、アルザイードマリュマセイドジルニ・ルー・コーリュ。

 闘龍で猛々しい紅龍。

 我これにて、龍王の理を外れ、

 全てを龍王の花嫁、ケイに仕えると誓う。

 守るときはケイの盾になり、

 攻めるときはケイの刀となり槍となる。

 これからは、銀の紅龍としてその役割を果たし、

 最期までその役割を放棄しないことを誓う。

 我の忠誠をこの剣に誓う。

 その証の品を受け取り銀の龍になることを許したまえ。」

そう言ってアルは剣をかかげ、ピアスを慧に差し出した。



慧はそのピアスを受け取り静かに言った。

「許します。真の紅龍の力でその剣を振るいますように。

 正義の上にご武運があることを祈ります。

 共に在ることを心から祝福致します。」

すると、砂漠の中から2つの紅い石があらわれ、

1つはアルの剣の鞘に埋まった。



もう1つの石は慧の中に消え、金色の光が2人を包んだ。

慧は、強い力に当てられ、アルの方に倒れたのをアルが支えた。



アルは、慧を天幕に運び優しく上掛けを掛けてやった。

そこから出ると、他の銀の龍が集まって歓迎の言葉を伝えてくれた。

銀の龍達は外に出ると円形になった。

誰かに教えられたわけでもなく言葉がでてくる。



「銀の龍の絆は強固なり。

 我らの理は、主である龍の花嫁。

 花嫁の為に全てを捧げることを誓う。

 常に誠実であることを誓い、

 この絆を銀龍の約束とする。」



周りを銀の光が覆い、皆の髪の毛が銀色に光る。

銀の龍達は抱擁を繰り返し、

全員が揃ったことを心から祝った。


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