眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-12-

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「皆様。一週間も何をやられていたのですか?」

カナンが不思議そうに聞くとアルが眉をあげて言った。



「大叔父様、一週間ですって?俺は父と4年は過ごしましたよ。」

ガイもうなずいて周りを見た。



「我々は1年くらいだな。」リュークがファルを見ながら言う。


「うっそ・・・俺たちなんて3年もかかった。」ジャンがファルに言った。


「我等は10ヶ月ほどだな。」フェルがそう言うとジークが頷いた。


「私たちは1年半ですね。得がたい体験を致しました。」ニコライが言った。


「私たちは半年・・・それ以上だと声がもたなかったと思う。」ルネが言うとルイも頷いた。


「楽しかったが私たちは2年だな。」イツァークがアハドに言う。


「私どもも1年ですね。法律の事なら任せてください。」サイシュンがリンエイを見つめながら言った。



皆は不思議そうに顔を見合わせた。



その時、慧の体からでる金色の光が薄れ始めた。

カナンの部下が困惑したようにガイとアルを見たので、2人は静かに皆の前に出た。


2人は何も言わなかったが、皆がこの2人に任せていれば大丈夫だと感じた。

2人の後ろに、龍の当主が立ち、銀の龍達は心配そうに慧を見あげた。



しだいに結界が解け、金色の柔らかい光が透明になってくると

皆は目の前の光景を信じられないように見つめた。

そこは、緑色の木々が生え、当たり前のように鳥や獣の姿があった。



ガイとアル、当主達、銀の龍、カナンとその部下は驚きを隠さないまま

森の中に入って行った。




しばらく歩くと、森が開けて畑があり、木で作った家が見えた。

家の中から人が出てきて、ガイを見て驚いた声で言った。

「当主様・・生きておいでで・・・。」



その声を聞いて他の家からも人が出てきた。

皆、簡素な服を着ていて武器も手にしていない。

「貴方達はここに何年いるのですか?」アルが聞くと1人の男が言った。

「ちょうど、5年になります。

 私達は、ここで、5年龍の力を使わずに人と同様の暮らしをしてきました。

 畑を耕し、獲物を狩り、家を建てました。

 持っていた武器は、刀鍛治がいたので、全て農具にしました。」


ガイとアルはその光景を鏡では見ていたが、

まさか5年もの歳月がたっているとは知らなかった。



「皆・・ご苦労であった。我もあれから時を過ごしている中で、

 みずからのあやまちに気づいた。

 皆にも随分無理をさせていたと思う。

 皆が紅龍の力を戻したとしても、以前のように軍に戻れとは言わない。

 ナバラーンの平和を守る、龍王の大切な民、生き物を守るというのが

 本来の紅龍のあるべき姿だと思う。

 以前のように戦や命を懸けた決闘を撤廃し、新たな仕組みを作ろうと思うが

 それでも、ついてきてくれる者だけ軍に戻ってほしい。」



ガイがそう言うと、周りにいた者全てが拍手をした。

すると、宙に浮いていた慧の体がゆっくりとした速度で落ち、

ガイの腕の中にすっぽりとおさまった。



「おっ・・すごい軽い・・。」ガイは身構えていただけに慧の軽さに驚いた。

「ファルム、前見たより随分細くなったな。

 仮にも成長期なはずなのに・・・。」リュークが眉を顰めて言った。

「いろいろありましたからね。」ファルがそう答えた。



いきなり慧の胸の所に金色に光る懐刀が現れ、

その中から紅い玉が空中に浮くと

その玉が増え、玉を失った紅龍の元へ降っていくと同時に刀も消えた。



「う・・・ん。」

慧が眠そうに小さな声を出すと銀の龍や当主達が口々に慧の名前を呼ぶと

慧はぼんやりと目を覚ました。



「ケイ様をこちらへ。」

カナンはそう言いながら、ここ数日滞在していた天幕に案内し

ガイはそこの居心地のよさそうなソファの上に慧を降ろした。

アルが水を差し出すと慧はぼんやりしながら水を飲むと

自分の周りを囲んでいる銀の龍たちを見渡して驚いたように言った。



「あれ・・・?また私、何かやらかしたかな?」

銀の龍達はあまりにも間の抜けたその言葉に一気に力が抜ける思いがした。



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