眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-11-

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「そろそろ・・目覚めが近い・・か・・・。」

リューゼは膝の上で眠っている慧の頭を撫でながら言った。


「そのようだな。」

リュートがそう言う。


「これ以上痩せられても困りますからね。

 結ばれてからが大変ですからね。」

貴雅がからかうように言った。

「そう・・嬉しくてあんまり無理させるとしばらく口をきいて

 もらえないかもしれないからな。」

リュートが貴雅を見つめながら言うと貴雅が頬を膨らませた。

リューゼがそれを見てクスクス笑うと、慧が気配を察して

目を覚ました。


リューゼは笑いながら慧にキスをした。

慧は嬉しそうにリューゼを見つめた。



この空間に慧が来て一週間がたった。

この一週間リュートと貴雅は、リューゼと慧を徹底的に甘やかした。

この空間は想念で作られているらしく、

何かをイメージするとそれが現れる。

海をイメージして泳いだり、桜の下でお花見をしたり、

キッチンを作って料理を作ったりと本当に何でもありで

とても楽しかった。

何でも、力の使い方は力を貰った時に一緒にわかるそうなので

心配しないで良いと言ってくれた。



こうして一緒に過ごしているうちにリューゼは笑うことが多くなっていた。

以前は笑うと言うよりも微笑む方が多かったのだが

今は、大きな声で本当に楽しそうに笑う。

それを見て慧も何だか幸せな気分になるのだった。



「何だか・・・また眠いや・・・。」

慧はそう言いながら子供のように目を擦った。


「慧・・・そろそろ・・お別れですね。」

貴雅が微笑んで言う。

「ケイ・・元気でな。」リュートが優しく頭を撫でた。

慧は眠いのを一生懸命こらえて言った。

「また、会えるかな?」

ぼやけた目の向こうにリュートと貴雅が微笑みながら頷いているのを見て

少し安心した。





−その少し前−



カナンは、宙に浮く慧を心配そうに見つめた。

慧は変わらずドームの上で浮いている。

カナンは心配で1日に数回は慧のそばまで飛び

顔を濡れた布で拭いたり、唇をぬぐったりしている。



慧の話を聞いた龍達や人が毎日集まり慧が作ったドームの周りで

早く慧が目を覚ますようにと祈る者が後をたたない。

「大丈夫なのだろうか?」

カナンは、金色のドームが消えた後のことを考えながら

眉を顰めた。


危ないから、帰りなさいと言うカナンや部下達に人々は

金の龍人がおられるから大丈夫と帰ろうとしない。

もし、ドームが消え、紅龍の軍隊が襲い掛かったらと考えると

背筋が凍る思いがする。




「カナン様・・皆様がお戻りに・・・。」

部下のの声がして金のドームの近くに作った天幕からでると

八方から龍が飛んで来て人型になった。



その中には、紅龍の当主のガイの姿もあった。

ガイは、カナンを見つけるとそばに来て

丁寧に礼をした。

周りの者はそれを見てざわめいた。



当主が頭を下げるのは龍王とその花嫁だけ。

このようにして叔父とは言え、下位のものに頭を下げることはしない。

「ガイ殿・・どうか頭をあげて下さい。」

カナンは、膝をついて言った。


「私は、本当に今まで取り返しのつかないようなことをしてきた。

 叔父上、許して欲しい。

 そして、これからこのようなことのないよう助言して欲しい。」

ガイは、深々と頭を下げた。



カナンは、両手で口を押さえた。

まさか、このような和解の道があるとは信じられなかった。

確かにたくさんの者が命を落とした。

しかし、これは当主だけの責任とは言えないだろうとカナンは思った。

「許すなんて・・・私の力も及ばなかっただけです。

 私で良ければ微力ながらもお手伝いさせてください。」

カナンはそう言いながらガイの手に忠誠のくちづけをした。



カナンの部下の紅龍達はカナンに従いひざまずいた。

「父上、良かったですね。」

ガイのことを父と呼ぶアルを見て

この戦いは本当に終わったのだと紅龍達はしみじみ思った。



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