眠る君へ捧げる調べ

       第9章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紅龍編〜-10-

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襲い掛かってくる猛獣を2人の男が叩きのめす。

「アル・・そっちに行くぞ。」

「ガイ、まかせて」

アルの剣が猛獣の急所に突き刺さった。

2人は猛獣が倒れると、疲れてそこに座り込んだ。


「さすが・・・と言おうか?」

紅い髪の大柄な男と綺麗な顔立ちの紅龍では小柄な男が

そばに現れて言った。

2人は来る日も来る日も猛獣と戦っていた。

初めは、親子の確執もあったのだが

協力しなければ自分達の身が危うかった。



「まあ、チームワークだけは良くなったか・・・。」

大柄の男はそう言って唇の端をあげた。

大柄の男は初代紅龍だ。

威勢が良く、見るからに強い。



「そうは、言ってもナバラーン最強では、ないですけれど。」

「紅龍より、強い奴がいるのか?」

苦々しそうに現紅龍の当主ガイが言った。

「少なくても、彼は今君達が対峙した猛獣を3分でおさめているねぇ。」

小柄な男が言う。こちらが、3代前の銀の紅龍だ。


「3分で?」アルが信じられないように言った。


初代紅龍が鏡を見せると、そこにはまだ幼い慧が猛獣と向かいあっていた。

「ケイ。」アルが驚いたように言う。

慧の姿は、7歳くらいで本当に小さい。

慧は猛獣に向かってにっこり微笑んで「道を開けてよ。」と言った。

すると、猛獣は慧に道を譲った。



「お前達は、力でねじ伏せることしか考えていなかった。

 紅龍は闘龍と言われるゆえに、その流れている血のせいかもしれない。

 しかし、この金の龍人は、血を流すことなく命を無くすことなく

 問題を解決している。その違いに気づかねばならなかったのだ。」

その言葉は、ガイに取って重い言葉だった。


今まで、ガイは全てを力でねじ伏せていた。

「そんな・・・方法もあったのか・・・考えたこともなかった。」

ガイは、ぽつりと言った。



「ガイ・・・。」アルは俯いて考えるガイの肩に手を置いた。

今まで、怖い存在、遠い存在だった。

アルは決して優秀な子ではなかったからガイも特にアルを可愛がるということはなく、

こうして2人きりになっても、父とは呼ぶことができなかった。

しかし、悔しそうに地を見つめている父を見て

それでもこんな姿をみたいとは思わなかった。



銀の龍の男がアルに静かに話しかけた。

「君も銀の龍になるなら、これからはこの当主と対等の存在になることを

 心に留めておきなさい。

 銀の龍になるということは、龍の理から外れること。

 つまり、当主との父と子の絆も外れる。

 そして、他の銀の龍と何よりも龍の花嫁と縁を結ぶのだ。

 その覚悟ができるか?」

アルは、男を見あげながら強く頷いた。



「まあ、あの金の龍人は大した人だな。

 紅龍もちゃんと教育しているみたいだし。」

初代の紅龍がそう言いながら鏡を見せた。

そこには、協力しあいながら家を作ったり

狩をしている紅龍の兵士達が映っていた。



「これは、どういうことだ?」

困惑したようにガイが言った。

「ああ。金の龍人は軍全体が覆う結界を張ったんだ。

 その中に森や泉を作り、皆の魔力を封印した。」

「つまり、魔術や力技はつかえないということか?」

「そうだ。そして、ここは攻めた軍人だけの世界だ。

 この中で、食料を確保していつ終わるかわからない生活をしなければ

 ならない。だから、つぶし合うのではなく協力しあう方法を考えたんだ。」



ガイは、ただ呆然と鏡を見つめていた。

そこに映っている紅龍達は嬉しそうに笑いあい

身分の上下も関係なく活き活きしていた。

「どこで間違ったのだろうか・・・。」

ポツリと呟くガイにアルは言った。



「間違いは正せば良いと思う。

 貴方が罪を背負うなら俺も息子として罪を背負うよ。」

そう言ってそっとガイを抱き寄せた。

2人の紅龍は微笑みながら親子を見守っていた。



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