眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-1-

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「この先がナバラデルトだ。」

アルが城門が見えた時、そう言った。

「すごいね。あの先に、あの方がいるんだ。」

慧は眩しそうに城門を見つめた。


人の目があるので慧はリューゼとは呼ばない。

「ケイ様もう少しだ。」

隣に座ったサイシュンが慧の手をぎゅっと握ってくれた。


「いままでの時間はあっという間だったけど、それでも1年は

 長く感じるんだ。それでも、あの方が近いと思えると

 今までと違う1年になるのかな。」

「とにかく、皆に言われたとおり、無理はするなよ。」

アルが言った。

「うん。」



そう、馬車に乗っているのはアルとサイシュンだけだった。

はじめ慧は、1人でナバラデルトに入るつもりだった。

なぜなら、初めから銀の龍を連れて行くと本来のナバラデルトの

姿を見ることができないのではないかと思ったからだ。


しかし、ナバラデルト以外から龍の花嫁に立候補するには

条件が必要だった。

1つ目は、紅龍の守護を受けたもの。

もちろん、ナバラーンでは複数の龍の龍人というのは慧のような

特殊なケースしか無いので守護を受けたといっても

おつきの1人に紅龍がいるとそうみなされるらしい。


なぜ、紅龍の守護かというと、ナバラデルトは紅龍の国

シャードファイアに囲まれる形で位置しているので

紅龍の守護無しに人や龍人の身でナバラデルトに入ることは難しいからだ。



そして慧は龍人なので魔術を使う可能性があるので

守護龍をつけるというのがもうひとつの条件だった。

どうやら、人と龍人では居住区域が異なるらしい。



そこで、慧が眠っている間に銀の龍達がもめにもめた結果、

銀の龍の中でそこそこ戦闘力があり、名前があまり知られていない

サイシュンが共に行くことになったのだ。



城門に着くと3人は馬車から降りた。

ナバラデルトの中には許可された者以外は

馬や馬車が入ることは禁止されているからだ。

花嫁候補は、しきたりにより、顔を晒して王宮に入ってはいけないとされているので

慧は薄い布を頭からかぶった。



その姿を見て城門の紅龍はすぐに通行を許可してくれた。

城門から入ると目の前に城下町が広がっていた。

しかし、城門にいた王宮付きの役人に馬車に乗せられ

王宮の門をくぐり手続きをする場所に通された。

そこで手続きをするのは、アルとサイシュンで

慧は椅子に座ってぼんやりと終わるのを待っているだけだった。

手続きが終わってからも、王宮の部屋の用意が整うまで

待つように言われたので、3人で取り留めの無い話をしながら

迎えが来るのを待った。



龍人が花嫁の候補になることは珍しいとのことで

ようやく案内の男が来た時はもうかなりの時間がたっていた。

龍人が花嫁候補になれるのは、龍の当主が祝福して龍人になった

者だけなのだ。



男は、門を何個も抜け廊下を抜け装飾が豪華な扉を開けると、

そこは明るい居間だった。

「花嫁候補様と守護龍様、もう少しお待ちください。」

男はそう言うと再び部屋を出て行った。



慧はソファに座りアルとサイシュンも椅子に座った。

部屋は、割とシンプルで上品な家具が置かれていた。

「もっと城ってごてごてしていると思った。」

と慧は嬉しそうに言ったが、アルとサイシュンは慧が

龍人だと知って重要な花嫁候補でないと思っての処遇だと

気がついたが何も言わなかった。



その時、ノックの音が聞こえ若い男と女そして少年が

部屋に入ってくると3人に丁寧にお辞儀をした。

「初めまして。私は、ケイと申します。」

慧がにこやかに挨拶をすると3人は驚いたように

顔を見あせた。

「なあ〜〜んだ。龍人って怖いと思ったのに優しそうじゃん。」

少年がそう言うと男と女はばつが悪そうに俯いた。




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