眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-2-

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「失礼致しました。私はケイ様付けの従僕になりました

 エドワードと申します。」

若い男が丁寧に礼をして言った。

「私はケイ様付きの侍女になりましたメリッサと申します。

 そして、こちらが小間使いのテリオと申します。」

やはり若い女がお辞儀をして少年も合わせてお辞儀をした。



「改めて初めまして。

 私は、ケイ・サエキと申します。

 一緒にこちらに座ってお話しませんか?」

3人は驚いたように慧の顔を見てブルブル首を振った。

「いけません。そんなことはできません。」エドワードが驚いたように言った。



「どうして?早く仲良くなるにはお話するのが一番でしょう?」

慧が驚いたように言った。

「私どもは従者なので、主と一緒にお茶なんて恐れ多いのですよ。」

メリッサもそう言う。



「ケイ様、それならお茶を頼んで、我々はこの椅子に座り

 この方達にはそこにある低いスツールに座って戴ければ

 誰かがこの部屋を覗いても違和感がありませんよ。」

サイシュンがビジネス用の言葉で言った。



「うん。じゃあ、お願いできるかな?」

「は・・い。かしこまりました。」メリッサが立ちあがって言った。

「ケイ様は昼もあまり召しあがってないから

 軽食もお願いできるか?」

アルもビジネス用の言葉で話す。

それがすごく違和感があって慧は笑いを懸命にこらえていた。





お茶が来るまで慧は庭に出ることにした。

居間の大きなガラス戸から庭に出ることできる。

庭は、木と花壇があるがあまり手入れがされていないようであったが

どうやらこの部屋専用の庭らしい。

庭の向こう側には建物と入り口が見え、

そこから入ってすぐにアルとサイシュンの部屋があると

案内してくれたエドワードが教えてくれた。



庭の手入れがされていなくて申し訳ないと言うエドワードに

慧は首を振って「野趣あふれた庭も素敵でしょう。」と答え、

庭に出てきた時から肩や頭にとまる小鳥たちの頭を優しく撫でた。



居間に戻ると美味しそうなサンドイッチやお菓子が低いテーブルに並んであった。

慧、アル、サイシュンが椅子に座るとメリッサはお茶を淹れてからスツールに座った。

エドワードとテリオもスツールに座っている。



「本当に、不手際が多くて申し訳ございません。」

エドワードが言うと、慧は首を振って言った。

「エドワードが謝ることはありません。

 貴方も急にこのような役目についたのでしょう。

 テリオもそうかい?」



少年はコクリと頷いて言った。

「僕は、今朝まで厨房の下働きだったのです。

 さっき言われましてで・・・。」

「テリオ、無理に敬語を使わなくていいんだよ。

 ほら、お茶だけではなく、お菓子も食べて。」

慧はテリオに焼き菓子を渡すと、

テリオはエドワードとメリッサの方を戸惑ったように見つめ、

2人が頷くと菓子を食べて嬉しそうに微笑んだ。



「エドワードとメリッサも違う仕事をしていたの?」

「私の家は、母が桜龍なのでこの城ではあまり重要な役割を戴けませんでした。」

「えっ。そんなの関係あるの?」

「ええ。龍人から人を選んでもやはり差別があるのです。

 だから、従僕としてつくのはもっぱらお客として城に滞在される方だけなので

 こうして、一の従僕になるのは初めてでございます。」



「メリッサは?」

「私は、有力な貴族の姫様について侍女としてこの城にあがったのですが

 その姫様のお父様が権力争いに負け、

 城を追われましてお情けでここに置かれているわけです。」



「何だか、大変だね。権力争いなんてあるんだ。」

「ええ。ただ、今はどの貴族様も自分の押した者が龍の花嫁になれるかどうか

 ということに意識が集中しておりますので、これと言って表面化しておりません。」

「龍の花嫁が決まると、何か変わることがあるの?」

「そうですね。龍の花嫁は人の城では一番位が上ですから、

 その方を押した貴族の力は強くなります。

 そして、その方についている従僕や侍女も城での位が上になりますから

 皆が有力な貴族の花嫁候補の従者になるように必死です。」



「そうか、ナバラデルトの有力な花嫁候補は出揃ったから

 ケイ様がここに来た時には、つける者はいなかったということか・・。」

アルが言うとエドワードとメリッサは気まずそうに頷いた。



「あっ。気にしないで、アルは別に悪気があって言ってるんじゃないんだ。

 私はかえって良かったと思うよ。

 それでね。私は身の回りのことで自分ができることは自分でする。

 それは、アルやサイシュンも同じだよ。」

「なら、私達は・・・?」メリッサが戸惑ったように言った。



「花嫁になるためにこの1年を費やすなんて私には考えられない。

 私は、ナバラデルトについてもっともっと知りたいんだ。

 だから、3人には遠慮なくいろいろなことを教えてほしい。

 普通なら、主に言ってはいけないという事でも、

 率直に話して欲しいんだ。

 それが、龍王と私が作る新しいナバラーンに必要なんだ。」



この時、エドワードもメリッサもテリオも慧が金の龍人だという事も、

龍王の花嫁になる人だということも知らなかった。

それでも、3人は慧にどこまでもついていこうと思った。

そう思わずにいられない何かが慧にはあったのだった。




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