眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-3-

本文へジャンプ




「ケイ様は?どちらへ?」

お茶を持ってきたメリッサが部屋にいたサイシュンに声をかけた。

「ああ、ケイ様は、アルと鍛錬しておりますよ。」

メリッサは、お茶と菓子をテーブルに置くと

中庭の方を見て驚いて言った。

「ケイ様は結構お強いのですね。」


中庭では、アルと慧が向かい合って刀を合わせている。

エドワードがその横で真剣に2人を見つめていた。

アルが慧の剣をはじき飛ばして鍛錬は終わったようだ。


少しすると慧が汗を拭きながら部屋に戻ってきた。

ちょうど、その時、ノックの音が聞こえて

テリオが部屋に入ってきた。

手には、紙袋を持っている。


エドワードが「テリオ遅いですよ。」と注意すると

「ごめんなさい。」と謝って慧に紙袋を差し出した。

「さっき、実家に帰ったら母さんが持たせてくれたの。」

慧が紙袋を開けるとそこには焼きたてのパンが10個入っていた。


そのパンは庶民が食べるパンで黒いパンだった。

慧は「へえ。美味しそうだね。」と言ってパンをかじった。

「おいしいよ。これ、テリオのお母さんが作ったの?」

「うん。母さんは町のパン屋に勤めているんだ。」


「へーーっ。テリオの家に行ってみたいねぇ。」慧がそう言うと

アルとサイシュンが同時に

「「ケイ様、いけません。」」と言った。

そのタイミングの良さに皆が笑った。



慧が午後のお茶は皆一緒に過ごそうと言った時、

エドワード・メリッサ・テリオとも気が進まなかった。

しかし、今はこのお茶会が1日の小さな楽しみのひとつになった。

エドワードは、慧に頼まれて王宮の礼儀作法や行事を教えている。

メリッサは、毎日慧の髪や服を決めるのを楽しみにしているし、

テリオも慧の好きそうな食事を厨房に頼んで持ってきてくれる。

3人とも接しているうちに慧やアルやサイシュンのことが好きになっていた。





「アル!!」

数日後、アルが慧の部屋に行くとサイシュンが紙を持ってきて

アルに差し出した。




『ちょっと街に行って来る。

 テリオに案内してもらうんだ。

 事後承諾だけど・・・。

 まあ、心配しないでね。

 お土産楽しみにしていてね。』




「はあ?ケイはどうやって出たんだ?

 普通、許可ないとこの城に出入りできないんだろう?」

アルが驚いたように言ったところにエドワードが入ってきた。

「あの?ケイ様はどちらへ?

 近々、花嫁候補者のお茶会があるとのことなのですが・・。」



アルは黙って紙を差し出した。

「大丈夫ですよ。許可証無しに城の外にはいけないのですから。」

エドワードが暢気に言うとサイシュンが口を開いた。

「アル、むしょうに厭な予感がするのは気のせいか?」

アルは、首を振って言った。

「いや。間違いなくケイは城の外にでたな。

 そういえば、妙に庶民的な服を持ってきてたよな。」

2人は顔を見合わせて深い深い溜息をついた。






テリオは、許可証を門番に見せて城の外にでると

嬉しそうに微笑んだ。

月に2回、テリオは、街に行く。

それは、エドワードやメリッサから頼まれたものを買うという用事があるのだが、

その用事を早く片付けると実家に寄ることができる。

そう考えると、ついつい歩くのが速くなる。



その時、すぐ後ろから「テリオ、歩くの速いよー。」と声が聞こえた。

テリオは、後ろを振り返り、指差して大声を出した。

「ケケケケケ・・イ様?なななななんで・・・・?」

そこには、慧がにこにこと立っていた。



この世にも珍しいとされている黒い髪は赤茶色になり、

黒い目も茶色になっている。

「うん!抜け出した。だから、テリオに街を案内してもらおうと思って・・・。」

「だだ・・・めですよ・・・すぐにでもお城へ。」

「だって、決められた時間しか橋掛からないでしょ?無理無理。」



城から外に出るには、橋を渡らなければならない。

その橋は、午前と午後、夕方に必要な時間だけかかる。

つまり、今、午前の時間に合わせて外にでたので、午後まで橋は掛からないのだ。



「ケイ様・・・髪や・・服まで・・・。」

慧が着ている服は、商人が着ているような服だ。

「テリオ・・・用事早くすませて遊ぼう!!」

街へずんずん歩いていく慧の後をテリオは走って追いかけた。

「ケイ様、待って・・待ってくださ〜〜い。」





  BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2009 Jua Kagami all rights reserved.