眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-4-

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「おじさん、そっちのお菓子ちょうだい。おまけしてねぇ。」

慧がにこにこ微笑んで言った。



「おおー。別嬪さんだねぇ。いいよぉ。まけてやる。」

菓子を売っていたおじさんは、少し多めの菓子を袋に入れてくれた。

「じゃあ、テリオの家に連れて行って。」

慧は、紙袋を受け取って言った。

どうやら、このお菓子を土産にするらしい。



「ケイ様・・きっと驚きますよ。」

テリオは、小さく言うと市場を後にして道をくねくね曲がった。

すっかり周りは下町だ。



「ふーーん・・19世紀ロンドンって感じだな。

 見たことないけれど・・・。」

慧は独り言を行った。



テリオは、レンガ建ての集合住宅の1つで足をとめた。

玄関の側には小さな花壇があり綺麗な花が咲いている。

テリオがドアを開けると女の人が嬉しそうに出てきた。

「まあまあ、テリオ元気そうじゃない?

 あれ?そちらは?」



「母さん、入るよ。ケイ様も中へ入ってください。」

テリオがそう言って家の中に慧を招きいれた。

慧が家に入ると小さな女の子が嬉しそうにテリオに抱きついた。

「テオ兄ちゃん、今日泊まれるの?」

「ごめん。マユラ。今日も日帰りなんだ。」

テリオが申し訳なさそうに言った。



「マユラちゃんって言うんだ。」

「お兄ちゃんの友達?」マユラは不思議そうに言った。

「うん、最近友達になったんだ。マユラちゃんも友達になってくれるかい?」

慧はそう言いながら紫龍の魔術を使って

小さな花束をマユラに差し出した。



「ケイ・・様・・・。ありがとうございます。」

テリオは泣きそうになって言った。

慧は、自分の仕える主だ。

その主が自分を友達だと言い、小さな妹にも優しくしてくれた。



「お城のお友達?テリオ、大変なお役目戴いたと聞いたのだけれど

 ちゃんとやっているのかしら?」

テリオの母がお茶をすすめながら言った。

「ええ。しっかり仕事しておりますよ。

 私の方こそ、いつも助けていただいております。

 ああ、すみません。私、ケイ・サエキと申します。」

慧はきっちり礼をして言った。



テリオがそれじゃ、説明不足だろうと心の中で突っ込みを入れながら言った。

「母さん、俺はケイに仕えているの。」

「えっ?じゃあ、この方が龍人?」母親は、驚いたように言った。

この地区では、龍人は龍と同じで恐ろしいイメージがあるのだ。

「龍人って言ってもそんなに人と変わりません。

 普通の人よりちょっとした能力があるだけです。

 私、怖くないでしょう?」

慧は微笑んで言った。



母親は安心したように何度も頷いて慧の手を握って言った。

「どうか、テリオをよろしくお願いいたします。」

「お母様、テリオは私に終生仕えてくださると言ってくれました。

 だから、お母様にお返しすることは出来ませんが

 私はテリオを守っていこうと思っております。

 安心なさってください。ああ、今度は泊りがけの用事も頼むね。」

慧は茶目っ気たっぷりにそう言った。





その時、バタバタと走る音が聞こえて女の人が入ってきた。

「テレサ。大変、ジルおばさんが荷車に轢かれたよ。

 あのままじゃ、足切断かもしれない。

 すぐそこで轢かれたからここに運びこんでよいかい?」

「テリオ、そこの戸はずして行くよ。」

慧が立ちあがって言うと、テリオは頷いて戸をはずして

慧の後を付いていった。



「怪我人を運びます。どいてください。」

慧は大きな声で言いながら人山をかきわけ

数人の助けを得てジルおばさんをはずしてきた戸に乗せ

居間に戻った。



ジルおばさんはあまりの痛みに失神しているようだった。

「テリオ、はさみ持ってきて。それと、洗面器に水を張ってきてください。」

慧はてきぱきと指示を出す。



「これから、傷を見ます。

 子供達には酷なので、見せないほうが良いですよ。」

慧はそう言って皆を部屋から出した。

テリオがはさみを持ってくると慧ははさみで服を切り傷を見た。

テリオの母が洗面器を持ってくると慧は包帯を持ってくるように頼んだ。



怪我はとてもひどくて出血も多い。慧は止血をしながらテリオに小声で言った。

「テリオ、カーテンを閉めて光が漏れないようにして。」

慧はそう言うのと同時に魔力が漏れない結界を張り始めた。

テリオがカーテンを閉めると蒼の魔術を使い、癒しの魔術を何種類かかけた。

すると、血が止まり、少しだけ怪我の具合も良くなったようだ。



それと同時に結界も解くとタイミング良く包帯と薬草を持ったテリオの母が現れた。

慧は薬草を配合しすり鉢ですり手際よく傷に塗りこむと

添え木をして包帯を巻いた。

それから、別の薬草を調合してそれを煎じて薬湯にしてのませると良いと

指示をして、時間が来たのでテリオと城に戻った。



城の前で慧は「また後でね。」と言うと木の陰に隠れ文字通り消えた。

テリオはいつものように門番に許可証を渡し、城内に入った。



城内には、テリオを待ち構えるようにアルとサイシュンが立っていた。



驚いたテリオの後ろの柱から黒髪黒目の慧が急に現れて言った。

「アル・・サイシュン、ごめ・・・んなさい・・・疲れた。」

アルは慌ててそばに行くと慧はその腕に倒れこんだ。





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