眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-7-

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「本当に・・この子は・・・。」

サイシュンは、塔の上の部屋の寝台で休む慧をみて言った。

慧はあれから休まずに塔の下の部屋の人の

鎖を断ち切り、蒼の魔術で体を癒し、最後の人を癒すと

力なく倒れたのだった。



慧の横にはフィリオが寄り添うように座っていた。

日に少しの水とパンのようなものが塔に投げ込まれるだけの

この塔に今は果物や木の実、干し肉まであった。

この食料は、朝から鳥達が引っ切り無しに明かり取りの窓から現れ

置いて行くのだ。

フィリオも外から水を皮袋に入れて何度も持ってきたので

久しぶりにこの塔の者は我慢せずに水を飲むことができた。




慧の隣にいたフィリオは急に慧の顔をペロペロと舐めはじめた。

「ふふふっ・・フィリオ・・・くすぐったいってば。」

慧はそう言いながらゆっくりと目を開いた。

「あっ。ごめんなさい。サイシュンが運んでくれたんだね。

 ありがとう。」

そう言いながら無邪気に微笑む慧にサイシュンはひざまずいて言った。

「ケイ・・・本当に何とお礼を言ってよいのか・・・。」

慧は首を振って言った。

「私にできることだけしただけだよ。」



慧が起きたことを知ったサイシュンの部下達も一番上の部屋にあがってきて

お礼を言った。

しかし、慧が何者だと知らない者はサイシュンの事件について

聞くと信じられないように言った。

「確かに、貴方は我々の命の恩人なのかもしれない。

 でも貴方の目的が私には理解できない。」

「アオシン、何を言うか?」サイシュンがそう言うのを遮って慧は言った。

「私の目的はこのナバラーンで皆が幸せに生きること。ただそれだけだ。」



「そんな話を信じられるわけないだろう?」

「私には、誰よりも大切な人がいる。

 私はその人に会う・・それだけの理由でこのナバラーンに来た。

 その人はこのナバラーンを誰よりも愛し、全ての人の幸せを願っている。

 だから、自分のできる範囲内でそれを助けるだけだ。」



「それでも・・・それでも・・・。もう既に遅かった・・・。」

アオシンはそう言いながら泣き始めた。

「どうしたの?」慧はアオシンのそばに行って聞いた。



「私達は・・・あなたのお陰で助かるかもしれない・・・

 ・・・でも・・・サイシュン様は・・・・。」

「言うな。アオシン。」サイシュンがそれを遮って言った。



アオシンと同様に周りの人も泣き始めた。

「アオシン?どうしたの?どういうことなの?」

「サイシュン様は例え無実でも裁判で刑が確定されております。

 我々は塔の幽閉だけですがサイシュン様は刺青の刑に・・・。」

「何?その刺青の刑って?」

「刺青の刑は一番惨い死刑です。刑は足に刺青を打たれます。

 そして、刺青が体中に広がるとその刺青はその人を圧迫して

 苦しんだ末に死ぬのです。」

「何・・それ?だってサイシュン、そんな死刑になることしていないでしょう?」

「それでも、龍王様の理の下で刑は処されたので止めることはできません。」

アオシンは泣きながら言った。



「その刺青は・・どこまで広がっているの?」

慧がサイシュンに聞くとサイシュンは黙って服をめくった。

すると、腰の上の部分まで蔦のような刺青が広がっていた。

「これは、止めることは・・?」

慧は泣きそうになりながら言った。

「ケイ、良いんだ。こうして私を慕ったものが

 守られ、君が介入してくれたおかげで

 たぶん、白龍も近いうちに本来の姿にもどるだろう。

 それを考えると・・・。

 私の命で解決するのならこれで良いんだよ。」



慧は首を振って言った。

「そんな。そんなことが許されていいの?

 あなたを慕っている人に重荷を背負わせて良いわけがない。」

「じゃあ、どうすれば・・どうすれば?」

普段冷静であるはずのサイシュンが力なく床に座りこんで言った。

慧もそれ以上何も言えなかった。

頭の中では、一生懸命どうすれば良いのか必死に考え続けていた。

こうしている間もサイシュンの刺青は体に広がっていくのだ。




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