眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-5-

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銀の髪を見た白龍達は黙って道を開けた。

次々と扉を抜けると、向こうから

1人の白龍とそれに続いている3人の白龍が歩いてきた。

「銀の龍だからと言って規則を破るのはいけないと思いますが・・。」

そう言う白龍に向かってファルが口を開いた。

「規則と言うものは、そちらも規則を破らないという前提であるのもであり、

 私の命を掛けた方がその歪みの犠牲になっているのなら

 そんな規則は無いほうが良いのです。」

「そういう話は、こちらで。」



側近の龍がそう言いながら応接間のような部屋に皆を導いた。

「できることなら、当主様と銀の龍だけで話をしたいのですが・・・。」

ニコライが丁寧に言うと当主も頷いたので

側近達は部屋を出て行った。

「改めて、私は白龍の当主。リンエイ・ラー・ハーリュです。」

当主がそう言うと銀の龍達も自己紹介をした。

「その御髪ということは花嫁に危機があるということでしょう。

 何がありましたか?」

リンエイがそう言ったので、ファルとニコライが丁寧にいきさつの

説明をはじめた。

説明をしているうちに銀の髪は元の色に戻っていた。









「起きなさいよ・・・ぼうや。」

馬車がとまったので女は慧をゆさゆさ揺すってみたが

慧は気絶したままぐったりしている。

「ほら、さっさと降りれ。」後ろの扉が開けられ大柄の紅龍が

そう叫んだ。

女は、慧をおぶって馬車の外に出ようとすると、

「おい。女待て!」と紅龍が声をかける。

「なんですか?」女が言うと紅龍は黙って女の背中から

慧を引き剥がした。



「あんたがた、鬼だよ。何でこの馬車に龍人を乗せるんだい?

 この子にも守護龍いるんだろ?」

女はそう怒鳴りつけると周りの人がざわざわした。

龍人を人間の護送馬車に乗せるのは拷問のようなものだ。

人が相手なら力でねじ伏せることができるが、

龍が相手ならそうもいかない。

守護龍は契約した相手の体調に敏感なので、例え罪人でも

やっかいになることがある。

兵士達の間にも戸惑いが生じた。



その時、「どうしたんだ?」という声が聞こえた。

そちらを見ると、2人の白龍が立っていた。

「この子。龍人らしいです。」

慧を抱き上げている紅龍は戸惑ったように言う。

「まさか・・・。人間のようだが・・・。」



壮年の白龍がそう言うと後ろに立っていた若い白龍が懐から

水晶を取り出した。

その水晶は人間に魔力があるかどうかわかる。

普通の人間は魔力がない、しかし龍人なら魔力がある。

その水晶を慧の近くに掲げるとその水晶はキラキラとまばゆいばかりに光る。



「確かにこれはまずいかもしれないな。

 そうだ。魔力が漏れない幽閉塔に入れるがよい。

 あそこなら気づかれない。」

壮年の白龍はそう言ったので、慧はそのまま紅龍の兵士に抱えられて

真っ暗の塔に放り込まれた。




「サイシュン様・・・。今この子が連れてこられました。」

中年の男が慧を抱えて塔の上の部屋に来た。

「タオ?まだ、少年じゃないか。寝台に寝かそう。」

サイシュンと呼ばれた若い白龍の男が薄い毛布をめくりながら言った。

ベッドに慧を横たえると近くの布で慧の汗ばんだ顔を拭いた。

「少しでも楽になればいいんだけど、ごめんね。」

男はそう言いながら慧の額を撫でた。

ここには薬も食べ物もないのだ。



すると、慧の目がぼんやりと開かれた。

「大丈夫ですか?」

サイシュンが声をかける。


慧にはその声は届かない。

・・・何だか、少し寒気がする・・・

こんな時は呼ばなくちゃ・・・。



「ファル・・・。」慧がそう呟くと

慧を金の光が包み胸元に金色の刀が現れ光りだした。

慧の魔力を塔が遮断しているので、部屋の中が金色に光る。

タオがその金色の光を見て腰を抜かした。



サイシュンは、驚いたように慧を見つめ肩をあらわにした。

そこには、金・蒼・闇・黄・桜・紫・翠の小さな龍が並んでいた。

「な・・・んと・・恐れ多いことを・・・。

 白龍はそこまで地に落ちたのか・・・?」

サイシュンの声は驚きに震えていた。





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