眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-4-

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ルイは、手続きをすませて

待ち合わせの場所に行った。

書類の精査などがあって時間を食ったが

ファル・ニコライ・慧が共同で作った書類は完璧すぎるほど完璧で

窓口にいた白龍の係りの人も驚いていた。



少し待っても慧は来ないので不安になったルイは

もう一度窓口に行って聞くことにした。

窓口に行くと先ほどの白龍がいて

ルイが事情を説明すると顔を曇らせて言った。

「もう受付時間が終わっているけれど、書類が不備な場合は泊めることもあるから

 明日出直しておいで。」

「そんな・・・。」

「とにかく、ここの窓口時間は終わったから帰った。帰った。」



ルイは役所の外に出ると、すぐに銀の龍達に連絡を取った。

数刻後、小さな宿屋の部屋に銀の龍達が現れた。




慧は、すごい頭痛と暑さで目を覚ました。

「あんた・・・ひょっとして龍人なのかい?」

そんな声が聞こえる。

慧が力なく頷くと額に優しい手がおかれた。

「あんたは、護送馬車に乗っているんだよ。

 この馬車は魔力が強いものに取って拷問だと聞いたことがある。」

「なん・・・で・・・・?」

「どうせ、白龍に捕まったんだね。

 わたしらもそうさ。大体人間がこの国に入ると

 ほとんど奴隷になるかこうして罪人になるんだからね。」

「そんな・・・。」

「人は捕まったら強烈な睡眠薬を打たれてその間に

 形だけの裁判を受けてこうして運ばれるのさ。

 まあ、命とられるわけでないけど・・・

 ぼうや・・少し眠りなさい。」

「この国は清い国なはずだけど・・・。」

「清い?違うよ。他の国でも奴隷販売が禁止されたから

 全部この国に集まっているのさ。」

「裁判を覆すことは・・。」

「無理だね。龍王様の元に決められた判決は

 誰も覆すことはできない。

 私もだよ。下手に買い物に出てきたら

 捕まったよ。」




「うっ・・・。」



目が覚めて余計、魔力を抑える力が強くなったみたいで

すごい苦痛だ。

「大丈夫かい?この中だけだと思うからおやすみ。」



あまりの苦痛に涙が零れた。

・・・心を平静にしなければ・・・・

でも苦痛は大きく平静になんかできない。



慧の魔力が漏れないから銀の龍を呼ぶこともできない。

「助けて・・・。ぐっ・・。」



急に空が曇り雨が降りはじめる。

その雨は強くなり雷も鳴りはじめた。

苦痛の果てに慧は意識を失った。





「ケイが泣いている。」

突然振り出した雨にルイはそう呟いた。

皆が席を立ちあがり、白龍の宮殿の方に向かって歩き出した。



宮殿の前には衛兵がいて言った。

「立ち去りなさい。この門は今は規則で閉ざされている。」

「うるさい。今すぐに当主と面会を求めたい。

 貴方たちに私たちを捕まえる権利はない。

 私達は、龍王の理を離れた銀の龍。

 むしろ、私達の要求は龍王の花嫁の要求。

 開けなさい。」

ファルがそう言うと白龍の衛兵は

「少々お待ちください。確認します。」

と言って姿を消した。





しばらく待っても出てこない衛兵に

アハドとジークが切れて、城門を魔力で吹っ飛ばした。

門の中に入って行き、他の龍もその後ろに続く。

とっさに攻撃しようとした白龍の衛兵は

銀の龍達の姿に目を見張った。

「うそだろ・・・。」



思い出したのはナバラーンの古い言い伝え





龍の花嫁を護る銀の龍。

銀の龍が心から花嫁を慕い

忠誠を誓い、身を捧げることを誓えば、

花嫁に危機せまる時には

その守りの力をナバラーンは祝福し

ナバラーンの大地は銀の龍を助けるであろう。

その証は、銀の御髪・・・。




自分の変化にすら気づかない銀の龍達の髪の色は

見たこともない艶やかな銀髪だった。




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