眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-6-

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しばらくして、慧が目を覚ました。

「目を覚ましたのだね?」サイシュンが声をかけると

慧はキョトキョト周りを見渡し、

「ここは?」と聞いた。

「ここは、ヤーシュの幽閉塔ですよ。」

「幽閉塔?」

慧は起きあがりながらサイシュンを見つめた。

「ええ。私はサイシュンと申します。

 私は1月前にここに幽閉されたんです。

 そして、こちらが私とともに来てくれたタオです。」

サイシュンがそう言うと中年の男が頭を下げた。




慧はサイシュンの足元を見て眉を顰めた。

「私はケイ。私には敬語使わないで。

 それよりもサイシュンの足・・・すごいことになっている。」

サイシュンの足は塔の壁から出ている鎖につながれ

パンパンにむくんで、足首から血が出ていた。

慧は寝台から起きあがり、金の脇差を抜くと

軽々とその鎖を断ち切り蒼の術を使ってサイシュンの怪我を癒した。

「どうして、サイシュンは幽閉されているの?」

慧はサイシュンと並んで寝台に座りながら聞いた。

「私は、公平であるはずの白龍も奴隷販売に手を貸し

 私腹を肥やしていることを知ったんだ。

 それで、それを調べているうちにそれはかなり大掛かりで

 たくさんの実力者と言われる人も関わっていることを知った。

 父は、どこまでも公平な人だから私は確たる証拠を探していたのだが

 逆に捕まり、無実の罪を着せられこうして幽閉されることに

 なったんだ。」

「この塔は窓はないの?」

「そこの一番上に見える明かり取りの窓だけだよ。

 そして、この下にも私の部下だった者が同じように幽閉されている。」




その時、明かり取りの窓が外から破壊され窓から何かが

塔の中に入って来ると慧の足元に降り立った。

「フィリオ!」慧は嬉しそうにフィリオの首を抱いた。



『ケイ・・?大丈夫?』フィリオが心配そうに言った。

『ああ。フィリオ?お願いがあるんだけど・・・。』

慧はフィリオにいろいろなことを囁くように言うと

フィリオは、再び窓から外に出て行った。



慧は立ちあがりながら、サイシュンに言った。

「さあ、一緒に行ってあなたの部下を助けてあげよう。

 そして、これからのことを考えましょう。」

そう言う慧の顔は少年のようなのに強い光を持った目を持っており

サイシュンとタオはただ呆然と慧の顔を見つめた。









ファルとニコライがリンエイにこれまでのいきさつを話し、

質問に答えていると白々と夜が明けてきた。



その時、風と一緒にフィリオが部屋に入ってきた。

「フィリオ?」ジークがそう言って立ちあがると

フィリオはクーニャの姿になりそのまま人型になった。

リンエイは驚いたように目を見開いた。

「ケイ様から伝言があります。

 まず、自分は大丈夫なので心配しないようにとのことです。」

「本当に大丈夫なのか?」

「ええ。ただ今いらっしゃるのが幽閉塔なので魔力が外に漏れない

 ので、皆様を呼べないと思われます。

 実は、ケイ様は気がつかれた時、ファルム様を呼ばれました。

 幸い近くにいた私はその漏れた魔力を頼りに場所がわかったのです。」

「確かに幽閉塔なら魔力が漏れることはないな・・。」

ジークが言うと、フィリオは頷きながら言った。



「それで、ここからが伝言です。

 ファルム様・ニコライ様・ルイ様は当初の予定通り

 提出した書類が中央法に組み込まれるために動いてください。

 ジャン様は、ここで夜にケイ様の姿を白龍の正しい心を持った

 方に見せてください。

 ジーク様とアハド様はケイ様を手伝ってください。

 具体的にお願いしたいことは後で。とのことです。」

「ケイは何をするつもりなのですか?」

「この国における、奴隷売買と白龍の過ちを根こそぎ絶ちたいそうです。」



「そんなに・・白龍は・・・。」

リンエイは震えた声で言った。

普通に考えたって、午後に捕まった慧が

裁判を受け、罪人の地ヤーシュにその夜に送られることはありえない。



「リンエイ様。今白龍で信じられるのは貴方だけです。

 そして、白龍を正しい方向へ導くのも貴方だけです。

 過去のことを考えるより、一緒に前に進みましょう。」

ファルの言葉にリンエイは力なく頷いた。





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