眠る君へ捧げる調べ

       第8章 君ノ眠ル地ナバラーン〜白龍編〜-2-

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「えーーっ・・これ着るの?」

朝から慧の情けない声が響いた。

「うん、設定的に僕の妹ということにしたいんだ。

 紫龍の未婚の女性は顔を見られるとさらわれる可能性があるから

 舞台やパーティ以外では全てを覆うような服を着るんだ。」

「妹・・・。」

「うん・・・ファルの予想では、紅龍は国境を越える道を監視すると

 言っていた。銀の龍はアハドも含めて顔が割れている。

 その辺、僕は顔が割れていないし、まさか慧が

 僕と2人きりで国境を越えると思っていないはずだよ。」

「じゃあ、これ着なきゃいけないんだね。」

「うん、見えないけれど中も女の人の衣装にしたからね。」

ルイはそう言いながらにっこりと微笑んだ。



慧はブツブツ言いながらもその衣装に身を通した。

その衣装はゆったりとしたワンピースの上に

頭からすっぽりとマントを被る。

ちょうど、どこかの砂漠の国の女性のような感じだ。

ルイは、キラキラしたブローチでしっかりマントを止め、

丹念に指にマニキュアをした。

慧はとても華奢なので見た目は女にしか見えない。

そのマントの内ポケットに冷蔵石を入れると

マントの中は結構涼しくなった。




「歩きにくいなあ・・・。」

慧はそう言いながら街道を歩いていた。

「リャオテイに入ったら乗り合いの馬車に乗せてもらおう。

 だから、がんばろう。ケイ。」

ルイは、そう言いながら慧の手をひいた。



国境に近づくと紅龍の屈強な男が目についた。

大きな男がルイに声をかけた。

「お前たち、子供連れの旅人見なかったか?」

ルイは首を振って言った。

「見ておりません。」

「お前たちはまだ幼いのに旅をしているのか?」

「はい・・。2人でそこそこの街の酒場などで

 歌を歌わせてもらっています。

 この隣にいる妹は僕の伴奏をしてくれるのです。」

慧はただ頷いた。

男は慧の手を見て言った。

「そうだろうな。力仕事ひとつしてないような指だものな。

 ほら、坊主達行って良いぞ。」

「あなた様にも旅の加護がありますように。」

ルイは旅人としての挨拶をすると

慧の手をひいた。




「おい!待て!」

凛とした男の声が聞こえた。

「何でしょうか?」

ルイは、驚いたように言いながら慧の手をぎゅっと握った。

その男は紅龍の中でも飛びぬけて背が高く

すごい威圧感があった。

「部下達も何もなく暇なようだ。

 ここで、一曲歌でも歌ってもらえないだろうか?」

ルイは荷物を置きながら言った。

「この妹は外では演奏をしたことがないのです。

 私だけでよろしければ・・・。」



男が頷くとルイは数曲そこで歌を披露した。

以前と比べて大人の声になったがルイの歌は素晴らしい。

旅人も足をとめてルイの歌声によった。

ルイが歌い終わると男は数枚の銀貨をルイに渡した。

「こんなに戴けません。」

ルイがそう言うと男は少し微笑んで言った。

「いや・・美しい歌声だった。近くの町で妹に首飾りの1つでも買ってやるとよい。」

そう言うと慧に大きな飴を差し出した。

慧は優雅に膝を折って礼をした。

女の人の礼は見ただけだったがどうにかうまくいったようだ。

「ありがとうございます。」

ルイはお礼を言うと荷物を背負って慧の手を握って歩き始めた。

慧も黙って歩いていく。

慧の手を握ったルイの手は汗でぐっしょりと濡れていた。




近くの町につくと、2人は先を急ぐ気力もわかずに

宿を取り部屋に入るとヘナヘナ座りこんだ。

「ルイ・・ありがとう・・・。」

慧はマントを脱ぐとルイにお礼を言った。

「いや・・コンサートよりも緊張したよ。」

ルイはそう言いながら慧の頭をなでて言った。

「ケイ・・何があっても守るよ。」

慧は嬉しいなと思う反面、俺の方が年上なんだけどと

(慧の頭の中ではこの世界に来た時点で20歳なので30歳は越えているつもりでいます。)

思いながら苦笑を浮かべた。

その夜はルイがどこかの店で調達してくれた食べ物を食べ

早めにベッドにもぐりこんだ。




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