眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-8-

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「慧、もういいの?」

母が朝食をあまり食べない慧に言った。

「熱でもあるのか?」

父が慧の額に大きな手をあてた。


慧は、うつむいて考えた。

本当は学校に行くふりをして飛行場に行こうと思っていた。

でも、そんなことをしたらだめだと思った。

ちゃんと両親に向き合おうと思った。

両親が死んだあの時、もう父や母と話せないやるせなさを

もう感じたくない。







・・・両親が・・死んだ・・?








次の瞬間慧の頭には次々と記憶が浮かんできた。

慧の目から涙がポロポロと流れはじめた。

「慧、どうしたの?」

「慧、何があったんだ?」

両親は驚いたように慧の顔を覗き込んだ。

「父さん、母さん、大切な話があるんだ。

 うまく話せないけれどそれでも聞いてくれる?」



あまりの慧の必死な様子に父は急遽会社を休み

母は学校に慧を休ませる連絡をしてくれた。



慧がリビングのソファに座ると父と母は

慧を挟むようにして座った。

「うまく、伝わるかどうか・・・わからないけど・・。」

慧はそう前置きして長い長い話をしはじめた。



元いた自分の世界で両親を亡くしたこと。

そして、その後に伯母に引き取られたが伯母も病気で亡くなったこと。

他の親戚が財産目的で自分に近づいてきたこと。

大学に通っていたある日あった龍聖のこと。

そして、愛する龍聖が亡くなったこと。

ナバラーンに飛ばされて龍人になったこと。

そして、ナバラーンで5歳からいままでのこと。

そして海でその魂を癒そうとしてこの世界に迷いこんだこと。



全てを話しながら慧自身も頭を整理させていた。

なぜ自分がこの世界に迷い込んだのか?

そして、両親の顔を見て言った。

「あの世界に心残りがあったとすれば、

 それは俺の愛する人を貴方達に紹介できなかったことだ。」




そう言った後に慧は小さな声で呟いた。

「リューゼ・・・来て。」

不思議とこの世界にリューゼが来てくれるような気がしたからだ。

そうするとリビングの窓際に金の光があつまり

リューゼがそこに立っていた。



「リューゼ。」慧が走り寄ろうとするのをリューゼが止めて言った。

「慧・・私に触れればあの空間に戻ることになる。」



慧は足を止めて両親の方を振り向いた。

両親は驚いたようにリューゼを見つめていた。

「お父さん、お母さん、この人が俺の愛する人です。」

慧がそう言うとリューゼを見て微笑んだ。

リューゼは穏やかな顔をして慧を見て微笑んだ。

リューゼはとても背が高くて威風堂々としており

とても大人だ。金色の髪に光の当たり具合によっては

金のように見える瞳を持ちその様はこの世の人には思えない。

いるだけで頭を下げたくなるような空気がリューゼにはある。

そして、慧はただの子供に見える。

それでもこの2人が微笑みあった時、なぜか互いを大切にしあっていると

思えた。



父は母と目をあわせて頷くとリューゼに語りかけた。

「あなたは、この子を幸せにしてくださいますか?」

リューゼは微笑みながら言った。

「今は、訳があってこの姿の私も生身の私ではないのです。

 だから、慧が20歳になるまでは私は慧に触れることはできない。

 それでも、この腕に慧を抱きしめたその日から

 慧と共に生き悲しませぬよう最大の努力は致します。」



リューゼのその言葉は真摯で慧はそれだけで胸に熱いものが

こみあげてきた。

「慧、私達は自分達があの世界で亡くなったことを知っているんだよ。」

父は静かに話しはじめた。

「私達自身もあんな死に方をするとは思わなかった。

 私達の心残りはね。慧の事だった。

 私達はいつでも慧のそばで見守っていた。

 それしかできないけれど、いつも一生懸命生きる慧が

 父さんの誇りだったよ。

 そして、龍星さんと愛し合っていることも知っていた。

 親として複雑だったけどね。

 でも、龍星さんが亡くなり、慧もいなくなったあと

 私達は本当に心配していろいろなところを探したけれど

 慧に会うことができなかった。

 そして、ある日気がつくとここにいて慧、君にもう一度会うことが

 できたんだ。」



「慧、ごめんね。私ももっと慧にいろんなことをしてあげたかったの。

 お弁当だっていっぱい作ってあげたかった。

 いっぱい、いろんなとこ一緒に母さんも行きたかったの。」

母が泣きながら言った。



慧は両親に駆け寄ると縋り付いて泣きながら言った。

「父さん、母さん・・・大好きだよ。」

「慧・・・。」



父と母は、慧をギュッと抱きしめると

慧をリューゼの方に押し出しそっとその背中を押した。

「慧をよろしく頼みます。」父は震える声で言った。

母は泣いて言葉がでない。


「わかりました。慧、言っておきたいことがあるなら言いなさい。

 私に触れるともう会えないから。」

リューゼのその言葉に頷きながら慧は両親をみつめて言った。


「父さん。母さん。ありがとう。

 本当にありがとう。

 大好きだよ。」

優しい微笑みを浮かべる父と泣きながらも微笑んでいる母に無理に笑いかけると

慧はリューゼに抱きついた。



リューゼは慧をぎゅっと抱きしめその瞬間金色の光に包まれた。



「慧・・・幸せに・・・。」



「リューゼ様・・慧を・・よろしく・・お願いします。」



そんな声に包まれながら慧は意識を手放した。




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