眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-7-

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しばらく潜っていたアハドは違和感を感じた。

自分を導くようにたくさんの魚達が泳いでいる。

その流れに沿うように身を任せると魚達は大きな

トンネルのようなところへアハドを導いた。

アハドは人の姿になり狭いトンネルをくぐる。



すると、その中には大きな魚がいた。



・・聖なる魚・・エルファ・・・



アハドは驚いたように魚を凝視する。

エルファは初代の龍王の時から生きている魚だと言われている。

尾は銀色で鱗は金と青銀色が混ざっている。




「よくいらした。翠龍の若者。」

その魚が話し出した。

「エルファ様ですね。私は、アハド・ルー・スーリュと申します。」

アハドは丁寧に挨拶をした。



「あなたは、何をしにいらしたのですか?」

アハドは慧と龍王のことを話し、深海の涙を探しに来たことを話した。

「そうですか。今度の妃様は優しい方なのですね。

 この海に溶けた妃様の慈しみの心がエルファにも届きました。

 私は、ここで5000年以上眠っておりました。」

「5000年もなぜ・・眠りに・・?」

「それは、人々の悲しみや心なきもののゴミで海が穢れたからです。

 私は、最後のエルファ・・・これでは子供を為すこともできなかったからです。

 でも、今この海は、初代の王の作られた海以上に祝福されています。

 ようやく、子を為すことができます。」

「それは、良かった。」

「妃様に私の深海の涙を・・・

 これで、きっと良くなるはずです。」



エルファは金色に光る深海の涙をアハドに差し出した。

「ありがとうございます。またお邪魔してよろしいですか?」

「こんな年寄りに会いに来てくださるのなら・・・。」

エルファはそう言うと大きな目をウィンクさせた。

アハドは礼をすると、急いで城に戻った。



城に戻るとまっすぐ、慧の寝かされている部屋に向う。

「アハド・・・。」アハドの母が慧についていた。

「慧は?」

「眠ったままよ。それにこの短剣どうしても取れなかったの。」

「そう・・・。」

アハドは、そのまま慧の口に金色の深海の涙をあて

爪で膜を破り、慧の口に薬を垂らした。



そのまま1晩たつと慧の頬がかすかにピンクになっていることに

気づく。

「良かった・・・。」アハドがそう呟いた途端に

慧の周りが光り人影が浮きあがった。



「えっ。」アハドは眩しい光に驚いて目を見開いた。

イツァークが異変に気づき部屋に走ってきた。


「皆さんも無謀な・・・。」


「ここが部屋で、ケイの魔力があるとなんとか来れると思いましたので。」

桃色の髪の男が言い、皆が自己紹介した。

そう来たのは、ファル、ジーク、ジャン、ニコライ。

ジャンの魔法で慧の様子を見て慧の魔力が戻ったようなので

銀の龍の魔法で飛んできたのだった。


ファルは、すぐに慧の診察をはじめて言った。

「身体は消耗していますが、問題はないはずです。

 長い事海の中にいたのですから、意識が戻るかどうかが

 大切ですね。なので、イツァーク様・・・

 慧に膝を貸してください。

 この子が本当に安らげるのはかの方の近くでしょうから。」

イツァークは子供を抱くように慧を抱きあげた。



「ケイ様・・あんなに痩せて・・・。」

ニコライが涙を浮かべジークも顔を顰めながら

ニコライの肩を抱いた。

ジャンは硬く手を握り締めたままだ。

「それでも、生きている奇跡に感謝するしかないでしょう。」

ファルがそう呟いた。



「すまない・・俺は見ているだけしか・・・。」

アハドが肩を落として言った。

「いや。あなたがいてくれて良かったと我は思う。」

ジークがそう言った。

「ケイにたくさん話しかけてくれただろう?

 俺たちありがたいと思っていた。」ジャンも言った。

「早く、目を覚ますと良いですね。」アハドがそう言うと皆がうなずいた。



・・・早く、目を覚まして・・・

皆は強く願いながら慧を見つめた。



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