眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-6-

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「う・・・ん。」

アハドはふと目を覚まし腕の中の慧を見つめて

青くなった。

「すごく冷たい。」

アハドは龍になりすぐに城へ戻った。

城に入ったアハドを迎えたのはイツァークだ。

「大丈夫か?アハド。」

「俺は、大丈夫。ケイが冷たい。」

イツァークはアハドから慧を受け取ると

「アハドも休みなさい。」と言い奥の部屋に連れて行った。



アハドは暖かいシャワーを浴びると着替えて慧が連れて行かれた部屋に行った。

そこでは、翠龍の医師が慧を暖めようとしていた。

「半年以上も海の水に浸かっているのです。

 せめて体温があがり意識が戻るとよいのですが・・・。」

イツァークは冷たい慧の頬に手をおいて言った。

「いつだって、君は自分のことより人のことを考える子だったものね。

 お陰で海の水はキラキラ光っているよ。

 ゆっくり休んで、早く目を覚ますんだよ。」

アハドも慧の小さな手を握った。

「本当に冷たい手だな。」



イツァークはアハドを見て、「いったい、何がおこったんだ。」と聞いた。

アハドは、金色の光と不思議な声を聞いた話し、

白い結界に包まれて意識を無くした話をした。

イツァークはその話を聞いて言った。

「たぶん、それは龍王様だろう・・・。

 慧と龍王様のお陰で海は浄化された。」




「父さん、俺は『深海の涙』を取って来ようと思う。

 ここにいても、どうにもならないし・・・。」

「危険だぞ。あれは確かに万能薬だが・・・。」

「それでも、ナバラーンにはこの子が必要だ。

 俺は行く。」

イツァークは、アハドを軽く抱き寄せて言った。

「気をつけて行って来なさい。頼むよ。」

アハドは、頷くと部屋を出た。




『深海の涙』は昔から翠龍に伝えられている万能薬で

かなり深い深海の底に漂う海藻のひとつであり

その海草が雫のような形をしているのが特徴である。

その海草の色が問題で浅瀬の海草の色は

緑色だが、海深が進むごとによって

蒼・黄・紅・銀色に変わっていく。

そして、銀色の深海の涙は万能薬になる。



しかし、いくら海の龍翠龍とはいえ

深海に潜るということは危険を伴う。

アハドのような力を持っている龍でも楽に潜れるのは

黄色の海草のラインであり、紅、銀の深海を潜れるのは

精々数分くらいである。

あまり長く潜っていると水圧により身体も頭も壊れるのだ。

アハドは龍になるとまっすぐナバラーンの海で

一番深いとされる海域まで一気に泳いだ。

翠龍でもあまり近寄らない場所だ。

アハドはまっすぐに暗い海底に潜っていった。





「お小遣いもらっちゃった。」

慧は嬉しそうに微笑み、学校の帰り近くの本屋に寄った。

楽しそうに新刊をみる。

慧は1冊の本を手に取った。

「これ買おうかな?」

慧はその本をレジに持って行き、本屋を後にした。


夕食後、慧は買った本を取り出した。

そっとその本を開く。

その本は、ミステリーで探偵が事件を解決するというストーリーだ。

ついつい時間を忘れて、最後まで読んだ慧はふと手をとめた。

そこには、作者近影が載っており

その写真を見た時慧は涙がとまらなかった。

「あれ・・・何でだろう・・・。」

慧はごしごしと目元を拭いた。



「結城・・・龍星・。この人・・・に会いたい。

 いや・・・でも・・・・この人に会ったら

 もう・・きっと父さんや母さんに会えない気がする。

 それでも・・・それでも・・・・。」

慧は机の引き出しを開けた。

そこには、お年玉を貯金した通帳が入っている。

開くと、7万ほどお金が入っていた。

慧は通帳を握り締めるともう一度龍星に向って言った。

「会いにいくよ・・龍星・・・さん・・。」

なんとなく自分がそう呼んでいたような気がした。




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