眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-5-

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「ジャン、皆用意はできてるよ。」

まだ暗いのに自治区の広場にはたくさんの人がいる。

「ケイ様のことだからね。人ごととは思えないよ。」

年配の男がそう言った。





「ニコライ様、全ての神官が祈りを捧げるそうです。

 もちろん、ここだけではなく・・・。」

「ありがたいことですね。

 私も用意しなければ。」ニコライはセントミリュナンテの長い回廊を歩き出した。





「こんなに・・・。」

アシュタラの研究施設の前庭にはたくさんの蒼龍が集まっていた。

その中にはともに楽器をやったものもいる。

「ケイ様のためですからね。」

蒼龍の言葉にファルは「礼を言います。」と頭を下げた。





「フィリオ、どうしたのだ?」

祈りを捧げようとするジークの服の裾をフィリオがクイクイ引っ張った。

一緒に行くと、そこには聖獣たちが人型になって

跪いていた。

「私達もいっしょに・・・。」フィリオが人型になって言った。

「そうだな。」ジークはそう言いながらフィリオに微笑みかけた。





ルイは、シュミレフの高い山の上にいた。

ここならば、龍王様に祈りが届きやすいだろうと考えたからだ。

その時、肩に手が置かれた。

「私達にも祈りの歌を歌わせてくれ。」

振り返るとレオンの他にも紫龍達が立っていた。





ナバラーンでは、日の昇るときが一番神聖な時とされている。

その神聖な時、皆が龍王に祈る。



ケイを助けてください。



その祈りが1つになった時、龍王が眠っている城から金の光が

天を貫いた。




その光は慧の眠る海に一筋に向う。

いつものように慧のそばにいたアハドは金の光が上から

降り注ぎ、結界がパリーンと割れるのを

驚いたように見つめ、慌てて慧の方に泳いで行き、慧を抱きあげた。



・・・結界を張るからそのままでいなさい・・・



そんな声が聞こえ、誰かに抱きしめられる感覚がした。

すると目の前が透明な白い膜で覆われると

外側が金色に光った。



・・・この中でおやすみなさい・・ケイを頼みますよ・・・



と言う声が聞こえ意識が遠くなった。


それから3日間ナバラーンの海は金色に光り続けた。





「慧、また図書館に行ってきたの?」

「うん。」

「うん。何だか知らないけれど最近興味がある本が多くてね。」

「難しそうな本ばかりね。」

母も不思議そうに言った。

慧自身も不思議なことに最近興味を持つ本は

土壌改良とか政治・経済の本だ。

それに自分では不思議なことに難しい漢字も読めてしまうのだ。

「前は、ピアノもあんまり好きそうじゃなかったのにね。」

「うん・・でも今は楽しいと思うんだ。」

伯母も急に上手になったと慧を褒めてくれたのだった。

家でも練習を欠かさない。


「本当・・一生懸命なのはお母さんも嬉しいけど無理しないでね。」

「うん。」

慧はそう言いながら自分の部屋に向った。



いつものように勉強机に向って図書館から借りてきた本を読む。

「何か忘れているような気がするんだよな。」

慧は独り言を言う。

最近、自分がここの人間ではないような喪失感と

時間に追われているような気持ちになる。

両親も不思議に思っているようだ。




「慧・・夕飯よ」

母の声が聞こえて慧がキッチンに下りていくと

ホクホクの肉じゃががテーブルに置かれていた。




・・・・うーん・・良い匂いだな・・・・




「えっ?」

「どうしたんだい?慧。」

仕事から帰ってきた父が聞く。

「ううん・・何か今声が聞こえた気がしたから。

 何だったのだろう?」

「空耳だろう?ほら早く食べるぞ。」

父に言われたように慧も自分の席についた。



それでも、慧の耳にあの低い声は残っていた。

・・・誰だったのかな・・・

何度考えてもその声の主の顔を思い出すことができなかった。




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