眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-4-

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セントミリュナンテの一室で銀の龍は頭を寄せ合っていた。

「海に入ることができなくても何かできることはないでしょうか?」

ファルが考え込んでいるとニコライが言った。


「金の龍に祈りを捧げましょう。

 たくさんの人の祈りが集まった時、金の龍はそれを叶えたと

 文献にも載っていますし・・・。」



「あの〜〜〜。」遠慮がちにルイが言った。

ルイは、まだ慧とは銀の龍の契約を正式には結んでいなかったが

慧と石を共有していることによってルイの玉が銀紫色に

なっているので呼ばれたのだった。



「どうしました?ルイ?」ニコライが聞くとルイが話し始めた。

「紫龍の魔術に水晶に声を覚えさせるという術があるの。

 せめて声だけでも慧に届けることできないかな・・と思って・・・。」

「もう、祈りでも何でも良いと思われることはやりますよ。」

ファルが立ちあがって言った。

「それぞれの仕事もこなして、やれることはやりましょう。

 ちょうどここに銀の龍勢ぞろいですし、水晶に声を

 覚えさせましょう。」

ニコライがそう言うと、ルイが用意すると部屋を出て行った。



ジャンが「自治区の仕事も進めなくては・・・。」と言うと

ジークも頷きながら「他の仕事もなるべく軌道にのせなくてはいけないな。」

と言った。



「こんなに馬車馬のように働かせて、起きた暁にはケイにもさぞ働いて戴きましょう。」

ファルが微笑みながら言うと、ジャンがニコライに囁いた。

「ファル・・メチャメチャ怒ってるな・・・。俺には・・黒いオーラが見えるぞ。」

「心配しているんですよ・・刺激しないほうが良いです。」

ニコライも小さな声で答えた。






そして、セントミリュナンテから遠い海の中でも慧の目覚めを願っているものがいた。

「ケイ・・・。今日はね。小さな弟ロティの誕生日で皆でお祝いしたんだ。

 ケイの誕生日はいつなんだろうね。ってロティが聞くんだ。

 考えてみると、そんな話もしたことがなかったな。」

アハドはいつもと同じく慧に話しかける。



日に8回、多いときは15回くらいもここを訪れる。

最近は、来る回数も増えた。

それは、少しずつだが集まる黒い靄が小さくなっているような気がしたからだ。

「早く目覚めて話・・しようぜ。」

アハドはそう言いながら翠の光を慧にむけて当てた。








「慧、宿題終わったか?」

「うん。お父さん。」

慧はそう言いながら自分の部屋に入ってきた父を見つめた。

この世界は、自分が小学生の時と同じ世界だ。

学校にいる友達も昔のままだし、

家の近くの駄菓子屋も健在だ。(慧が大人になったときには

駐車場になっていたが・・・)

ただ、1つだけ違うことがある。

それは、両親がいると言う事だ。

伯母も生きていて、以前のようにピアノを習っている。

ここは現実でないと慧はわかっている。

それでも、ここを離れることを考えたくない。



「お父さん。」

慧は最近不安になるとこうして側の大人に抱きつく。

その温もりを確かめたくて・・・。

「本当に慧は甘えん坊だな。男の子だろ?」

父親の暖かくて、大きな手が慧の小さな頭を撫でる。



それで、慧は安心する。

そう言えば・・・

どこかで側にいてくれた人がいたような気がする。

こうして抱きしめてくれた人がいるような気がする。

何だったっけ?誰だったっけ・・・?



「慧・・どうした?」

「ううん。何でもないよ。お父さん。

 そうだ!!一緒にお風呂入っていい?いこっ。」

慧が父の手を引っ張る。

「そうだな。慧、背中こすってくれるか?」

慧は父に向って元気に頷いた。




少しずつ・・少しずつ・・

慧はナバラーンのことを忘れている。

この世界が現実でないことは少しは気づいている。

それでも・・ずっと欲しかった父母の温もりが嬉しくて

この世界を離れたくないと思う気持ちが

ちょっぴり勝ってしまっていた。





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