眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-3-

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「慧・・起きなさい・・・。朝よ。」

朝の光が顔を照らす。

「う・・・ん・・もうちょっと・・・。」

「ほら、学校遅れるわよ。」

慧はがばっと起きあがった。

「急に起きあがると体に悪いわ。慧。」



「か・・・母さん?」

慧の目からポロポロこぼれる。

「どうしたの?熱でもあるかしら?」

母は小首をかしげ慧の額に手を当てた。

「母さん、母さん。」

慧はそう言いながら母親に縋りついた。

母は、安心させるように慧を抱き寄せると

優しく慧の背中を撫でながら言った。

「本当に今日の慧は甘えん坊ね。」

「母さん、どうしたんだ?慧何かあったか?」

男の人の声が聞こえドアが開く。

「父さん。」

慧が驚いたように目を見開く。

「どうした?慧、何で泣いているんだ。」

父が大きな手で慧の頭を撫でる。

もう、本当にこらえきれなくなった。

8歳の時に事故で亡くなったはずの両親が目の前にいるのだ。

両親は不思議そうに顔を見あわした。



慧は無理に笑顔を作りながら言った。

「こわい・・夢・・見てたのかな・・・。」

「どんな夢かい?」

父親が聞いた。

「皆においていかれる夢。」

「馬鹿ねぇ。ほら、私達はそばにいるわよ。

 着替えなさい。朝ごはん、出来てるわよ。」

母がそう微笑んで言った。

「そうだよ。慧。おいていくわけないだろう。

 下で待っているよ。」

父がそう言いながらドアから出て行った。



慧は、ゆっくりと首を回して部屋の中を見た。

自分の体を見ると12歳の自分。

小学校に通っているらしく、勉強机にランドセル。

タンスを開けると見覚えのある服が入っている。

「こんな服・・久しぶり。」

慧はそう言いながら、服に手を通す。

「慧・・・。早く降りてきなさい。」

「うん!今行く。」

慧は手早く着替えて階段を走って降りた。

そう・・・8歳まで彼がしていたように。






「もう1月がたつのか・・。」

アハドは、いつものように海に潜りながら言った。

慧の作った結界の一番慧に近い場所に泳いで行った。

アハドは1日に最低5回はここに来る。

「ケイ・・歌歌っているんだな。

 いつもと同じように綺麗な歌だな。

 妹達が、また歌を聞きたいと言っていたぞ。」

聞こえないかもしれないけれど、アハドは慧に声をかける。

慧が美しい歌を歌っている。

いつものように海底に黒い靄が広がる。

歌が終わると金色の光が降り、金の粉が海面に昇っていく。

それが終わると、アハドはそっと手と手をゆるく合わせ

翠色の球体を作る。そしてそれを慧の方へ投げる。

玉は結界を抜け、横たわっている慧の体を翠色に包む。

光は、しばらくすると慧の体に消えた。

「ケイ・・・早く目を覚ますんだ。」

アハドはそう呟くとそこを後にした。





「イツァーク様・・・それは・・本当のことですか?」

ニコライが驚いたように言った。

セントミリュナンテの一室に銀の龍が集まっていた。

「あの・・・馬鹿・・・。本当に次から次へと・・・馬鹿・・・。」

そう言って涙をポロポロ流したのはファルだ。

ジークがそんなファルの肩を抱いて祈るように目を閉じた。

「命に別状は無いんですよね。」ジャンが心配そうに言う。

「それが・・わからないんだ。

 とにかく、結界が解けないことには・・・。」

イツァークが目を伏せて言った。

翠龍以外の龍は泳げない。

行きたくても慧のそばに行くことはできない。

「イツァーク様・・慧はどんな顔をしていますか?」

ジークの問いにイツァークは静かに答えた。

「微笑をたたえて眠っているよ。何か楽しい夢でも見ているようにね。」




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