眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-12-

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「アハド?翠龍には、魔法があるの?」

「翠龍は、風を使える魔法が使える他に

 身につけているものを身体に隠す魔法が使えるな。
 
 でも風を使える魔法はかなり魔力を消耗させるから
 
 ケイはあまりつかったらいけない。」
 
「そうなんだ。その身につけているものを身体に隠す魔法って

 どんな物を隠せるの?」
 
「ああ、短剣とか装飾具を体内に隠せてその重さを軽減させることができる。」


「それ教えて。何しろ私は装飾具だらけだから。短剣だけで、2本持っているし・・。」


そう言いながらゴドッとテーブルの上に2本の短剣を置いた。

「それに、ファルにもらった指輪でしょう。ジークとアハドからはピアス、

 ジャンにもらったブレスレッド、ニコライにもらったアンクレットがあるから
 
 どう見ても、このままなら普通の龍人に見えないよね。」

「ちなみにこの2本の剣は?特にこの装飾の美しい剣はとても重いみたいだが・・・。」

「う〜〜んとこっちの剣は闇龍の仕事道具の剣で、こっちの剣は初代の龍王の妃からもらった

 剣で、私の魔力を調整する剣だから手放せないんだ。でも、この剣は羽根のように
 
 軽いんだよ。あっ。リュークが私だけ使える聖剣だって言ったんだ。」
 
「まあ、確かに翠龍のこの魔術はあまり体に負担になるものではないからな。」

アハドはそう言って、慧に呪文を教えると慧の体から装飾具と2本の剣が消えた。



「これで、肩の痣まで消せると良いんだけどねえ。

 あと、この髪を一瞬で染めるとか・・・。」
 
黒髪はナバラーンでは珍しく、金の龍人が黒髪だということは多くの人が知っているのだ。
 
「そこまでは、翠龍の魔術にもないぞ。何しろ体にしまえるというのは

 そのまま海に入ってはいろいろと危ないから生まれた魔法だ。」

アハドはそう言いながら苦笑した。






それから更に半年ほど経ち、ファルは慧に旅にでて良いと許可を出した。

ある晴れた朝、2年半世話になった翠龍の城を出発することにした。

すっかりこの2年で仲良くなった翠龍の一族は泣いて別れを惜しんだ。

慧はアハドに陸地まで送ってもらいそこに銀の龍が翠龍の城から飛ぶことになった。

アハドは、翠龍の国グリュックバルトと蒼龍の国アシュタラの国境付近の

陸を目指した。

陸にあがると、慧は嬉しそうに陸地を踏んだ。




アハドは人型になると慧の足を乾いた布でふいて靴を出してくれた。

慧が靴をはくとアハドは空をみあげて険しい顔をして

「ケイ、早く銀の龍を呼べ!」

と言って、慧を大きな体で庇った。




慧は、「皆、早く来て!」と願いながら空をみあげると

紅龍の集団がこちらに飛んで来た。

紅龍は、高度を落としまっすぐ慧の方に向って来た。



次の瞬間、慧の周りにファル・ジーク・ジャン・ニコライが現れ、

ニコライが慧をしっかり腕の中に抱きしめると

その他の銀の龍が一気に龍に代わり、紅龍の方へ向って行った。

特にジークとアハドは大きく魔力も強いので、紅龍を何体も体当たりで

薙ぎ払った。

ジャンとファルは協力して慧の周りに防御の結界を張った。

西の空から白い翼を持ったフィリオが現れ、慧の足元に降り立ち

うーーーっと唸り声をあげる。



グリュックバルトの海の方から翠龍の戦士が現れると、紅龍は逃げ始める。

アハドは、1体の紅龍を前足で捕まえると力技で海に潜る。

ナバラーンでは翠龍以外の龍は泳げないのでその紅龍も人型に戻り溺れた。

アハドも人型に戻り、海岸にその紅龍を引きあげると手早くロープを出し

縛りあげた。

紅龍が全て逃げたので、他の銀龍も人型に戻って慧を囲んだ。




「ここからなら、アシュタラのファティモの森が近いです。

 そこは聖なる森で純潔の蒼龍と聖なる龍しか入れないとされています。
 
 恐らく銀の龍は聖なる龍でしょう。移動しましょう。」

とファルが言ったので、アハド以外の銀の龍はファティモの森へと移動した。

以前暮らしていた小屋の近くに慧を降ろしたファルはアハドを迎えに海岸に戻った。

ファティモの森の小屋はファルと慧が暮らしていた時とほとんど変わっていなかった。

その時仲良くなった動物たちが森中の木の実や果実を持って集まってきた。

ジークは小屋の中の暖炉に火を入れ皆が小屋に入った。

「ケイ、ファルが来るまで少し休みなさい。」

ニコライは暖かい蜂蜜湯を慧に飲ませてベッドに慧を寝かせた。

慧は毛布の暖かさに安心して眠りはじめた。








「失敗したのか・・・。」

紅い髪の壮年の男が怒鳴る。

「は・・・い・・伴の龍が強くて・・・。」

「失敗したので許されるはずはない・・我々は何としてでも

 金の龍人を連れてこなければならないのだ。」

「大伯父上・・・私が参りましょう。こちらは2度も失敗しているのです・・・。」

壮年の男の近くにいた若い男は長い紅い髪を掻きあげながら言った。

「お前が・・行くのか・・戦になるぞ・・・。

 当主が黙ってないぞ。」
 
「それでも、金の龍人を連れ出さなくてはなりません。

 まずは、用意しなくては・・・。
 
 向こうも、馬鹿ではないでしょう。用心するはずです。」

男はそう言うとにたっと笑った。







先ほどの海岸に戻ったファルはアハドと落ちあった。

「あの男は死んだ。」アハドは静かに言った。

「どうしてです?」

「たぶん、秘密を話してはいけないという龍の約束を交わしていたのだろう。」

「何を話したのです?」

「狙いは誰かと聞いたら・・金の龍人と言った途端に苦しみだして死んだ。」

「やはり・・ケイが・・・何か悪い予感が致しますね。

 リャオテイ行きは気をつけないと・・・。

 とにかく、アハド一緒に来て下さい。」

次の瞬間蒼い竜と翠色の龍がアシュタラの空に消えた。





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