眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-11-

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「アハド、私が眠っていた時も目覚めてからも

 本当に良くしてくれてありがとう。」

慧は微笑みながら言った。


「いや・・俺にはあのくらいのことしかできなかった。

 ケイに比べると本当に何もできていない。」

アハドは首を振りながら言った。


「そんなことはない。きっとあの海でアハドが

 毎日声をかけてくれないと私はまだまだ

 回復に時間が掛かったかもしれない。

 それに、深海の涙がなければ身体の機能も

 壊れていたかもしれないとファルから聞いたんだ。」

「俺は、自分のできることしかできなかった。

 ケイみたいに我が身を犠牲にして

 海を救おうなんて俺にはできないことだ。」

「あれは、本当に夢中だったから・・・。」

「お陰で、海が綺麗になり魚達も生き生きとしているようだ。」

目を細めてアハドが言った。



「私は、アハドにお願いがあるのです。」

「願い・・・か?」

「ええ。これは命令ではなくお願いです。」

慧はアハドを見あげて言った。



アハドは慧を真剣に見つめてはっとした顔をして

ひざまずいた。

「アハド、私の銀の龍になって

 共に時を過ごして力になって下さいませんか?」

「慧・・・俺で良いのか?」

アハドは心配そうに言った。

それは、他の銀の龍があまりにもすごい人だと思ったからだ。

慧は微笑んで言った。

「アハド、何も他の龍と比べなくて良いと思う。

 アハドにはアハドしかできないことがあると思う。

 ナバラーンの地に翠龍だって結構いるはずだ。

 私はアハドに銀の龍になってほしい。」

「すごく・・それは、光栄なことだ・・・。」

「アハド、すまない。

 私の我侭で、アハドの一生を決めてしまって・・。

 銀の龍は色々な制約の中で生きていると理解している。

 それでも、翠龍で一番私が近しく感じるのはアハドなんだ。」




「ケイ・・・。」

アハドは息を深く吸い込んでから言った。

「わかった・・・でも・・1つだけ条件がある。」

「何?」

「俺は、自分が願って銀の龍になりたい。」

アハドがそう言うと海がキラキラ光り

海の中から翠色の石がふわふわ飛んできて2人の中に吸い込まれた。



アハドは、ピアスをはずすとそれを差し出しながら言った。

「俺の名は、アハド・ルー・スーリュ。

 翠龍の元に生まれた海と風の民。

 これにて、龍王の下を離れ、龍王の花嫁

 ケイに仕えることを宣言する。

 これにて、我は銀のスーリュとして

 一生この身をささげることをここに誓う。

 俺との絆としてこのピアスを捧げ、

 銀の龍になることを許したまえ。」

慧は微笑んで言った。



「許します。アハドがナバラーンの地、

 ナバラーンの海に愛されますように。

 これから伴に在ることを祝福致します。」

慧の体を金色の光が包み、その光がアハドの方へ動いた。

アハドは、中から湧き出てくる力に驚いて慧をみつめると、

慧は糸が切れたように倒れてきた。

アハドは慌てて慧を支えた。

「まだ・・体調は万全でないのに・・無理をさせたな・・。」

アハドはそのまま慧を抱えて

長い階段を降り、慧の部屋に行く。





慧の部屋には、他の銀の龍が集まっていた。

アハドが慧をベッドに寝かせると、

ファルが静かに話しかけた。

「アハド、歓迎します。

 これからよろしくお願いいたしますね。

 私達は家族のようなものですから

 何でもできることなら言ってくださいね。」

アハドが頷くとジークが言った。

「我も歓迎する。」

「私も歓迎します。」

ニコライも微笑みながら言った。



「ところで、アハド。銀の龍で一番の仕事は何だと思う?」

ジャンがニコニコしながら言った。

アハドがわからないと答えると

「ケイを心配すること。これが一番多い仕事さっ。」

ジャンがそういうと他の銀の龍は大きな溜息をつきながら

大きく頷いたのだった。



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