眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-10-

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それから、1年がたった。

初めは、立つこともできなかった慧だが

銀の龍達のおかげで日常生活には支障のないくらいになった。


ただ、疲れやすいのと完全に体力が戻っているわけでは

ないので、ファルにはまだ旅に出ることを止められていた。



ここに来た時、12歳だった慧も14歳になっていた。

そしてやはり身長はあまり伸びず、体型もほっそりしている。

翠龍の城は海の中に建っているので、

慧だけではなく、ファル・ジーク・ジャン・ニコライも

ここにずっと留まっている。



そうは言っても慧の世話だけでとどまっている4人ではなく

ファルは、海草を作った薬や海水療法の研究。

ジークはエルファを初めとした聖獣ならぬ聖魚の飼育研究。

ジャンは、海産物の保存方法や資源の活用研究。

ニコライは翠龍の子供達のために勉強や教養を教えている。

イツァークや翠龍の側近達も

この様子を見て、グリュックバルトの陸地部分に

新しい学校や市場や研究施設をそれぞれの龍と共同で作ることに

したようだ。




慧は翠龍の廊下を走っていた。

イツァークの執務室にむかうと、ノックをして中に入る。

イツァークは急に入ってきた慧を見て

何も言わずにソファに腰を降ろすと両手を広げた。

ここに来る理由は1つしかない。

「イツァークありがとう。」

慧はイツァークの膝にちょこんと乗りながらお礼を言う。

「良いんだよ。慧ちゃん。相変わらず軽い体だねぇ。」

そう言いながらイツァークは優しく慧の背中をポンポンと叩くと

慧は眠りはじめた。





「慧」

「リューゼ。」

慧は目を覚ますとぎゅっとリューゼに抱きついた。

「慧・・・どうした?」

リューゼはそう言いながら慧を膝の上に抱えあげた。



「ここ数日、ジャンに頼んで鏡で俺が眠っていた時の

 皆を見せてもらったんだ。

 あんなにたくさんの人が俺の目覚めを願い、

 献身的に俺の事だけを考えてくれたことに

 俺は申し訳なささと怖さを感じたんだ。」

「そう・・・。」

「目覚めた時にファルが泣いていた。

 何のための銀の龍だって。

 それからだって、俺は皆に甘えている。」

「良いんじゃないか?それで。」

「いいのかな?」

「ああ。慧と銀の龍の関係は、私と当主の関係と似ていると思う。

 知っているとは思うけど、私は末っ子だから

 皆に甘えまくっているよ。

 それでなくても、皆心配性だからね。

 ちょっとしたことで大騒ぎ。

 それが嬉しい反面、鬱陶しいと思うことだってある。

 慧もそうだろう?」



慧が頷くのをみてリューゼは続けた。

「彼らは兄でもあるが、同時に従でもある。

 そこの所が、私を孤独にしている。

 たぶん慧もそうだろう?

 主従という関係があるとそれを超える事は難しい。

 それでも、彼らは一番の味方だ。

 そして彼らは頼られることを望んでいるんだ。

 そこのところを慧はわかってあげなくてはいけない。」



「難しいなあ。」

「例えば、城には侍従やメイドがいる。

 彼らの仕事は、世話をすることだ。

 でも、慧が全部それをやってしまったらどうだい?」

「仕事無くなってしまって困る。」

「そうだね。じゃあ、慧がすべきことは?」

「感謝してやってもらう・・ことかな?」

「そうだ。それと同じように甘えさせてもらえばいいんだよ。」

「何だか、わかったような・・わからないような・・だな・・・。

 あとね・・リューゼ。もう1つ相談したいことがあるんだ。」

慧はそう言いながら膝の上からリューゼをみあげた。

「何かね?」

「あのね・・・・。」










アハドは、城の上層の部屋に佇んでいた。

そこから見る夕日は格別だからだ。

今日も水平線に日が沈む。

ふと人の気配に気がついて後ろを向いた。

「ケイ・・・。」アハドは慧のそばに行き慧を抱きあげた。

「無理はいけないと言われているだろう?

 こんな高いところまで階段を昇ってきて・・・

 汗をかいているじゃないか?」

「いや・・たいしたことないと思っていたけど

 結構きつかった。それでも、私はアハドと話をしたかったんだ。」

慧は真剣な顔をしてアハドをみあげた。

アハドはじっと慧の顔を見つめた。




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