眠る君へ捧げる調べ

       第7章 君ノ眠ル地ナバラーン〜翠龍編〜-1-

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イツァークの背に乗って慧は翠龍の国グリュックバルトの空を飛んでいた。

いつも一緒だったフェリオも今回はジークのところに留まることになった。

「あっ。海だ。」

慧は青くきらきら光る海を見て声をあげた。



イツァークは海岸で1回人型になった。

「慧ちゃん、これから我が城に行くが大丈夫だからしっかりしがみついているんだよ。」

そう言うとまた龍になってそのまま海にザブンと入った。

・・・これって浦島太郎?

いや・・亀じゃなくて龍の背中に乗っているけど・・・

慧はのんびりとそんなことを考えて落ちないようにイツァークの背にしがみついた。

不思議に息は苦しくない。

体も冷たくない。



見ると透明な膜が慧を包み込んでいる。

突然目の前に西洋風の城が現れてイツァークはその中にさっと入っていくと

人型になった。

「ようこそ。慧ちゃん。我が城に。」

「海の中だから他の龍はこれないってわけ?」

「ああ。そういうこと。だから人や他の種族をはじいているというわけではないんだ。

 陸地部分には人も住んでいるから自治区の話も受け入れようと思っていたし・・・。」

イツァークがそう言いながら城の中を案内してくれる。

「ありがとう。考えてくれているんだね。」

慧は嬉しそうに微笑んだ。

イツァークも嬉しそうに微笑む。



「まあ、あなた。ラブラブですね。」女の人の声が聞こえた。

「ほら、可愛い子だろ?」イツァークはそう言いながら慧を押し出した。

「お兄ちゃん、何で黒い髪?」

「お兄ちゃんの目も黒い?」

小さな子供が慧の顔をみて言った。

そこに集まってきたのはイツァークの家族達だった。

皆、慧を歓迎してくれて、生まれてから1度もこの城をでることの

無かった小さな子供達は興奮して慧にいろいろと質問をしてくる。

慧はレオンから教えてもらった紫龍の魔法で

綺麗な手品みたいなことをすると子供達は

嬉しそうにしていた。




イツァークの家族は、イツァークの妻が5人いて

その子供達がたくさんいる。

皆が本当に家族という感じで慧はすごくあたたかいものに

包まれたような気持ちになっていた。

「慧ちゃん疲れてるみたいだわ。」

イツァークの奥さんの1人が慧の様子を見てそう言ったので

慧は寝室に案内されることになった。



案内の翠龍は、どんどん階段を下っていく。

慧もその後を急いで追いかけた。



・・・あれ・・・おかしい・・・



急に眩暈がして苦しくなってきた。。

「おい・・・。」後ろから低い声が聞こえた。

案内をしていた翠龍の「アハド様・・。」という声が聞こえた。



慧は後ろから抱えあげられるとどこかの部屋に連れていかれた。

ソファに寝かせられると翠色の目が見え、紙袋が口にあてがわれていた。



「ゆっくり吸って・・吐いて・・・。」



低い声が心地よい。

慧も言われたとおりにすると苦しく無くなってきた。

紙袋を取り起き上がろうとする慧を男は引きとめた。

「少しこのまま休んでいなさい。」


そう言いながら子供にするように慧の頭を撫でた。

「なんか・・恥ずかしいな・・・」

「何歳ですか?」

「12歳・・・。」

「まだまだ、子供ですよ・・・。」

「すごく眠い・・・。」

「眠っておしまいなさい。」

「う・・・ん。」

まだあどけない子供だ。



アハドは慧の頭を静かに撫でながらそう思った。

この子がナバラーンに変化をもたらせているとは到底思えなかった。

「アハド様・・ケイ様は?」

先ほどの翠龍が心配そうに覗いていた。

「ああ。大丈夫だ。彼は龍人だ。

 ここの環境に体が合っていないのだろう。

 過呼吸だったようだ。

 心配するな。

 後は俺が見ている。もういいぞ。」

アハドはそう言って下がらせると慧の体を抱えあげ

ベッドに寝かせ、ライトを消すとそっと部屋を出た。





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