眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-15-

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「本当に良いのですか?ルイ。」

ニコライが歩きながら言った。

「うん。良いんだ。シュミレフには僕がやりたい音楽はないから。」

ルイは夜空を見あげながら言った。



レオンは、ルイにシュミレフに残れないか聞いたが

ルイはきっぱり断ったのだ。

「また、会おうと言ってくれただけで

 僕はとても嬉しかったんだ。」

ニコライは、微笑みながらルイの頭を撫でた。



2人はレストランから宿に帰る途中だ。

「ねえ。ニコライ先生。」

「なんですか?」

「慧がね。言ったんだ。本来紫龍は小さな喜びを人に

 あげる存在だったんだって。

 僕は、そうなりたい。ミリュナンテで音楽を学んで

 音楽の楽しさを皆に広めたいと思う。」

「そうですか。」

「でも、僕が一番喜んでもらいたいのは慧なんだ。

 慧は、僕より小さいのに僕にたくさんのことを教えてくれた。

 今の僕はまだ慧を守るなんて言えないけど、

 もっと頑張って、先生達のように慧を守ることはできないかな。」

そう言いながらニコライを見あげたルイの眼差しは真剣だった。




それから数週間が流れた。

慧は、体調を整えるまで紫龍の宮殿から出てはいけないと

リュークに言われたので与えられた部屋で静養することになった。

ルネは、芸術の一線を退き紫龍の国を第一に考えることにしたそうだ。

直々にソフィアの家にも行き、和解をしたらしい。

ソフィアは父の手を握り泣き崩れたという。



そして、慧の肩には金・蒼・闇・黄・桜・翠・紫の小さな龍が並んでいる。

ルネが慧を祝福してくれたので増えたのだ。

簡単な紫龍の魔法はレオンが教えてくれた。

ルイに会った次の日レオンは慧を見舞ってくれ、すっかり仲良くなったのだ。

「レオンにはこれからがあるんだ。

 これから、ルイやソフィアといっぱい仲良くなればいいでしょ?」

レオンはその言葉に救われたような気がした。



慧は、イツァークに翠龍の国、グリュックバルトに誘われていたので

セントミリュナンテに戻らずにそちらに行くことにした。

何でも、グリュックバルトにあるイツァークの城は翠龍以外は住みにくい場所だと言う事で

銀の龍もついていくことができないらしい。

イツァークの話ではグリュックバルトの城には翠龍とその龍人しか

住んでいないそうだ。何でもその理由は行ってからのお楽しみということだ。



そして、リュークのお許しがでたので明日の朝、イツァークが迎えにくることになったのだ。

その夜慧はルネに夕食に招待された。

夕食には、ルネとなぜか集まったリューク・フェル・ロベルト・イアンと銀の龍がいた。

この面子のすごさにテーブルを共にしようとする者はいなく

慧にとってその夕食の席はいつもと同じ和やかなものだった。



夕食が終わるとルネが慧を大広間に誘った。

慧は大広間に入って行き目を丸くした。

そこには、ルイ・ソフィア・レオンを初めとする紫龍がいた。

慧達は、椅子を勧められ座った。

紫龍達が歌い始める。それはあのナバラーンの歌。

慧は涙を流しながら言った。

「やっぱり、紫龍にはかなわないなあ。」



・・・ああ。この国はきっとこれから大丈夫だ。・・・

慧はその歌声を聞きながらそう思った。

涙が止まらない慧の頭をファルが優しく撫でて

ニコライが柔らかい布で慧の頬をぬぐった。

歌が終わると皆がそれぞれ歌を歌った。



その時、ルイが慧のそばに来て外の風にあたろうと誘った。

近くのガラス戸からバルコニーに出ると

ルイは、慧の手を握って言った。

「ケイ、ありがとう。

 本当にありがとう。」

慧は微笑みながら言った。



「いいんだよ。ルイ。本当に良かった。

 これからは、皆が間違いなく幸せになれるんだよね。」

「ケイ、僕はまだ何も力を持たない。

 まだ、勉強の身だし元々紫龍は龍の中でも弱い。

 それでも、僕が大人になったらケイを守って良いだろうか?」

「ルイ・・・?君・・・。」慧は驚いてルイを見た。

ルイは跪いて言った。

「僕には歌しかとりえが無いけれど、ずっとケイの笑顔の

 為に歌わせて下さい。」

それは、ルイに誓える全てだった。ルイが自信をもって言えるのは

それだけだったから。



慧は震える声で聞いた。

「ほん・・とうにそれで、良いの?」

ルイは頷いた。それと同時に紫色の石が夜空から落ちてきて

2人の体に消えた。

「ルイ・・・ありがとう。」

慧は泣きながらルイを抱き寄せた。

他の銀の龍が微笑みながら2人を見つめていた。




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