眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-14-

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慧は、毛布に包まっているような温かさに幸せを感じていた。

「う・・・ん。」

目を覚ますと「ようやく起きたのか。」という声が聞こえた。

「もっとねむい・・よ。」

「おい・・・寝るな・・と言うか・手を離してくれ。」

慌てるような声と一緒に体が揺さぶられる。

「う・・・ん・・・わかった・・・。」


慧はようやく目を開けて「え・・・・・えええええええ。ここどこ?」と驚いて声をあげた。

目の前には白っぽい服を着た薄紫の髪の男が困った顔をして座っていた。

「ケイ。良かった。目を覚ましたのですね。」

リュークの声が聞こえた。



「リューク。どうして?」慧はまだ状況が飲み込めていない。

リュークは慧のそばに来て言った。

「本当に、ファルが言ったとおり無謀な子だね。

 ケイ、無理しすぎだ。丸1日眠っていたのだからね。」

「1日?」慧は驚いたように言った。

「そう・・そして、君はルネの服をずっと握り締めて離さなかっただよ。」

リュークはそう言いながら癒しの魔法を慧にかけながら、もう一度ベッドに寝かしつけた。

慧は「ごめん・・・ね。」と呟きながら再び眠り始めた。



「ルネもお疲れ様。」

リュークはそう言いながら微笑んだ。

「いや。この子は・・何で・・・?本当に金の?」

リュークは頷いて言った。

「ああ。ナバラーンに人の自治区を作ろうとし、

 今は学校も作ろうとしている子だよ。」

「何で・・その子が・・・コンクールに?」

「この子は、命の尊さを知っている。

 そして、自分の大切な者を失う辛さも・・。

 だから、自分に関わる者を愛そうとするんだ。」

リュークは寝ている慧の髪を撫でながら言った。



「愛・・・とは愚かだと私は習った。」

ルネは小さな声で言った。

「それは、先代のあの噂のことかね?」

ルネは頷いた。

「ああ。愛なんてくだらないと言われ私もそれを受け入れた。

 でも、考えてみるとあれからこの国も変わってしまったのだな。」



「恨まないでほしい。とあの方は言ったそうだ。」

「えっ?」

「古の予言どおりあの子は、私達の膝の上であの方に会うそうなのだよ。

 その時に言われたそうだ。」

「そんな・・・一番辛い思いをしたのは・・・。」

ルネの頬を涙がつたう。

リュークがルネをそっと抱き寄せた。





「ルイ?」

レストランで食事をしていたルイは声をかけた人を見つめた。

「レオン?」

小さな声でルイはレオンを見あげた。

「ルイの隣に掛けたら如何ですか?」

ルイの側にいたニコライが微笑みながら言ったので

レオンは居心地が悪そうに椅子にかけた。

ルイは、小さくなって俯いている。

「綺麗な声だった・・・。」

最初に言ったのはレオンだった。

驚いたようにルイがレオンを見あげた。

「すごく、綺麗な声だった。素晴らしかった。」

ルイの目から涙が零れ落ちた。

今まで自分の歌を褒められたことが無かった。



年の離れた兄は、ルイの憧れの存在だった。

そんな兄が初めて自分の歌を褒めてくれた。

「話は全部聞いた・・すまなかったな。

 許されるものではないが・・・。」

レオンはそう言いながらルイに頭を下げた。

ルイは泣きながら首を振って小さな声で言った。

「もう・・・いいのです。

 頭をあげてください。」

ルイは泣き続けた。


ニコライが優しくルイを抱き寄せ

子供にやるように背中をポンポン叩きながら

「ルイ・・良かったですね。」と言った。



・・・ああ、自分はこの手で弟を抱きしめることも無かったのだ。・・・

レオンはそのことに今更ながら気づいた。

レオンは恐る恐るルイの薄紫の髪に手を伸ばして頭を撫でた。

とんでもないことをしていたのだという後悔だけが

のしかかってきた様な気がした。



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