眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-13-

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その後、コンクールの発表になった。

各絵画部門、各音楽部門の表彰式が続く。

慧はジークにもたれて客席ですーすー寝息をたてていた。

それぞれの受賞者がスピーチをしている。



「そろそろ、起こさなくてはいけませんよね。」

ファルがそう言いながら、慧の肩をゆすり起こした。

「ケ・・・ケイ・・・起きてください。」

慧は「う・・・ん。」と言いながら半分目を開けた。



司会の紫龍が慧の名を呼んだ。

「ほら、ケイ・・呼ばれていますよ。」ファルは、

ぼーっとしている慧を立たせ慧は半分眠りながらも

ステージの方に歩いていこうとした。



「やれやれ・・・。ケイ。おいで。」

慧の様子を見たリュークがさっと慧を抱きあげ

ステージの上にあがって行った。

ステージにいたルネはリュークの姿を見て驚いたように慧を見つめた。

「この子は疲れ果てて眠ってしまっているので

 申し訳ありませんね。」

穏やかにリュークが言うと司会の紫龍は首を振って言った。




「おめでとうございます。審査の結果ケイ・サエキのチームが優勝です。」

リュークは優勝の印のガラス細工のトロフィーを贈られ

スピーチを頼まれると、小声でルネに

「ルネ。この子を抱いてくれないか?」

と頼み慧を差し出した。

ルネの腕に抱かれた慧は慣れたようにルネの首に手を回して眠っている。

ルネは慧の軽さに驚いた。




リュークは静かに話し出した。

「本当は、申込をしたケイ・サエキがスピーチするところではありますが、

 何しろ疲れきってそこで、眠ってしまいましたので代わりに

 私がスピーチさせていただきます。

 私は、ここで眠っている彼に感謝の想いでいっぱいです。

 初め、この話を聞いた時馬鹿げた話だと思いました。

 皆様も知っているとおり芸術に秀でた紫龍に太刀打ちできるはずがないからです。

 私は彼に聞きました。本当に紫龍を超えるつもりでいるのかと。

 ところが、彼は意外なことを言いました。

 超えるつもりはない。ただ、自分達の演奏を認めてほしい。

 本当に音楽が好きな人が心をこめて演奏して、演奏している曲を愛することができるならば

 その暖かな気持ちは伝わってくるはずだと。

 私も恥ずかしながら、技巧が全てだと思っていました。

 しかし、彼と一緒に演奏して、初めて楽器が弾けた時のくすぐったい嬉しさを思い出したり

 今日の曲のテーマである愛について考えた時、

 私自身もとても幸せで、心をこめるということは

 すごく大切なことに気がつきました。



 そして、もう1人感謝したい人がいます。

 私達の指揮と歌を歌ってくれたルイ。ありがとう。

 君はどんな時でも笑顔で教えてくれた。

 耳が悪くて音楽ができなかった時が一番辛かったと君は言ったね。

 私は君を見て考えました。

 こんなに将来有望な者が病気の為にその才能を発揮できないことは残念だと。

 だから、蒼龍直営の病院をどの国でも充実させようと思いました。

 できたら、経営は黄龍の力を貸していただきたいと思います。



 私達が龍王様から戴いた特別な力を大切にしつつ、

 これからは、龍の種族や人との垣根を取り

 ともに良い面を吸収し、補いあえるのであれば、

 今日の演奏のように皆が一体になり、皆が幸せになれると思いました。

 だから、私ができることとして、他の龍や人でも我々蒼龍の知識を知りたいのなら

 研究施設を開放したいと思います。



 全てのナバラーンの者は自分で自分の将来を選ぶ自由があるからです。

 そして、誇りを持ってナバラーンの歌を皆とともに歌いましょう。」

ここまでスピーチすると皆が立ちあがって拍手をした。



ルネは、壇上で目を閉じてリュークの話を聞いていたがリュークに握手を求めると

リュークは微笑みながらルネに言った。

「あいつが起きたらまた一緒に合奏しよう。」

ルネは寂しそうに微笑みながら頷いた。




「慧・・・せっかく来たのに・・よほど疲れたんだな。」

リューゼは慧を優しく抱きしめながら言った。

慧はここでも眠っている。

「ありがとう・・・慧・・・。

 君にならきっと話せる日がくるだろう。

 今は・・・ゆっくりおやすみ。」

リューゼは何度も眠っている慧にキスを落とした。



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