眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-9-

本文へジャンプ




数日後、セントミリュナンテに銀の龍が集まった。

「ケイ、話ってなんですか?」

ファルが不思議そうに聞いた。

「あっ。ちょっと待って。」

「何を待つんだ?」ジャンが言った。

ジークとファルとニコライも不思議そうな顔をする。



すると、急にドアが開いてリューク・ロベルト・イアンが入って来た。

「げっ。」ジャンが言う。

ファルは溜息をつきながらリュークを見つめた。

慧はリュークとロベルトに抱きつき挨拶している。

その時、再び扉が開いてフェルともう1人男が入って来た。



その男は日に焼けた黄金色の肌をしていて

水色の髪に翠の目をしている。

見た目は全然違うのに慧は、その男の目に見覚えがあった。


慧は、小声で呟いた。

「まさか・・・・。うそっ・・・。」

男は、微笑んで慧に両手を広げた。

慧は、ロベルトの手から離れその男に駆け寄ると

泣きながら抱きついた。



「小さな慧ちゃんは、随分泣き虫になったな・・・。」

その言い方はとても優しくて聞き覚えがあった。

「樹さん・・・。どうして?」

慧は泣きながら男の翠の目を見あげた。

男は微笑みながら言った。

「慧ちゃん、こちらでは初めまして。

 俺は、イツァーク・ラー・スーリュ。

 そして、慧ちゃんを認めた存在だ。」

「俺を・・認めた・・・?」

慧も素で一人称を使っている。

「ああ。俺は、監視者という役割を持っていたんだ。

 慧ちゃんは、俺が後押ししたんだ。」

「そうなの?」

「だから、我が翠龍の祝福を慧ちゃんに・・・。」

イツァークはそう言いながら慧をぎゅっと抱きしめた。

2人を透明な水色の光が包んだ。



そして、慧はイツァークの膝の上に倒れこんだ。

「おやすみ。慧ちゃん。良い夢を・・。」

イツァークはそう言いながら微笑んだ。





「慧・・・。」優しい手が慧の頬を撫でている。

「リューゼ。」慧は微笑みながら目を開けた。

この所、慧はリューゼと定期的に会っている。

セントミリュナンテにはイアンがいるし、慧を可愛がっている当主達が

遊びにくるからだ。

慧は、リューゼに紫龍の話をした。

リューゼは慧の話を聞くと目を伏せてしばらく考えて言った。

「慧・・・。紫龍の当主を憎まないでほしい。

 ああなったのには、我々にも原因がある。」

「原因?」慧は不思議そうに言った。

「慧は、我々の父の妃の話を聞いたことがあるか?」

「少しは・・何でも、早くに亡くなったとか・・・。」

「その原因がその時の紫龍の銀の龍にあると一般的にはされている。」

「え〜〜。どういうこと?」

「妃と紫龍の銀の龍がある部屋で一緒に倒れて亡くなっていたそうだ。

 だから、一般的には紫龍の銀の龍が妃をたぶらかし、犯してはならないことを

 犯したとその時噂をされたらしい。」

「犯してはならないこと?」

「そう、妃と身体を繋げたということだ。」

「本当に?」慧が驚いてリューゼをみるとリューゼは黙って頷いた。



「慧は金の龍と銀の龍の関係を知っているかい?」

「うん。親子でしょう?」

「そうだ。親子だ。その事件で一番責任を感じたのがその時の紫龍の当主だ。

 私と次期当主達は、50年は一緒に兄弟として生活した後に

 それぞれの龍に分かれ、必要なことを学ぶ。

 その時、紫龍の当主はかなり厳しく接したらしい。

 次期当主として再会した時は、既に芸術主義になっていた。」

「兄弟でなんとかできなかったの?」

「何度も他の当主とも話し合った。しかし、本質的なところが変わらない。

 本来的に紫龍は孤高の芸術家ではなく、人を喜ばせるのが好きな龍だった。

 その分、情に弱く騙されやすかった。」

「そのせいで、そんなことになったと、前当主は考えたんだね。」

リューゼは頷いた。

「ああ。そして、芸術もより洗練された技巧の高いものが良しとされるようになった。

 慧も見るとわかるがね。紫龍の芸術は、すごいなあと思うんだけど、

 心から楽しいなとか感動するというものとは違うんだ。

 そして、紫龍の歌から愛の歌は無くなったんだ。」

「悲しい話だね。だからこそ、俺は頑張るよ。」

「ああ。慧・・ありがとう。」

リューゼは寂しそうに言った。

慧は、膝によじ登りリューゼの頬に何度もキスをする。



しだいに慧が透明になりその世界にはリューゼだけが取り残された。

「慧・・・紫龍がたぶらかしたんじゃないんだ。

 しかし・・これを言うと・・・。私と同様・・・君も・・・・。」

リューゼはそう呟くと悲しそうに溜息をついた。




  BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2009 Jua Kagami all rights reserved.