眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-8-

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「ソフィア姉様。」ルイは、そう呼びかけた。

「ルイのお姉さんなの?」

慧が驚いたように言うとルイはコクリと頷いて言った。

「ソフィア姉様は、亡くなったと聞いていたんだ。」

ソフィアは、ルイを抱きしめて泣いている。



「やれやれ・・・こうなるとは・・・。」

男は椅子に深々と腰掛けながら言った。

「あなたは、魔法を使っているのですね。」

ルイは、男に向って言った。

「ああ。」男はそう言いながら低く呪文を唱えると

美しい薄紫色の髪が現れた。

「うそーっ。」慧は目を見開いて言った。

周りを見ると子供達も紫龍の容姿をしている。



男は慧とニコライに椅子を勧めると長い話をし始めた。

ルイの母親は、ルイを産んですぐに亡くなった。

そして、小さなルイを育ててくれたのは姉のソフィアだ。

シュミレフで会ったレオンは、ルイの異母兄弟になる。

紫龍の気質として、自分でお金を得て生活をすると考えるものは少ない。

皆が、誰かパトロンをつけて芸術活動を続けることを考えている。



しかし、代々紫龍の楽器を作っていた男の一族は違った。

彼らは楽器作りに誇りを持ち、貧しいながらも生活していた。

男は、楽器を通してソフィアに会い、恋に落ちた。

しかしある日、ソフィアに縁談が来た。

相手は有力な黄龍でソフィアの容姿にほれ込んで申し込んできた。

ソフィアは、その縁談を断りたかった。




何とかソフィアの縁談を進めたい義母集団はソフィアに縁談を断るか

毒薬を飲むかどちらにしろと押し迫った。ソフィアは毒薬を飲み、

朦朧としているところを森に捨てられた。

男は、ちょうどその森で楽器の材料を調達しているところだった。

男は、ソフィアを献身的に看病し、ソフィアは一命を取り留めた。

しかし、高熱のためにソフィアは聴力を失った。

男は、誰もいないシュミレフの山奥に引っ込みこうして細々と楽器を作り

日々の糧を得ているのだ。




「俺は・・憎い・・ソフィアをこうした紫龍が憎い。

 ソフィアを父親の当主すら探さずに芸術にしか目を向けない紫龍が憎い。」

男は震えて言った。

慧は静かに立ちあがって、男の手を取って首を振って言った。

「憎しみは何も生まないよ。あなたが紫龍を憎んでいると彼女は悲しむ。」





ニコライは居間に作られた祭壇に跪くと祈りを始めた。

ルイもそれにならい、跪いた。

ソフィアもその子供達も跪いて祈りを唱え始める。

男は、戸惑ったようにそちらを向く。

「ニコライは、あなたの憎しみが癒されるように祈っているんだ。

 ルイはあなたの家族の幸せを。ソフィアも幸せを祈っている。

 もし、あなたがここで紫龍を憎まないことを誓うのなら

 私は、あなたにもうソフィアのような者がでないように力を尽くすことを誓う。」

男は、涙を流しながら頷いた。

ルイは美しい声で歌い始めた。

「ソフィアの声と似ている・・。」男はそう呟くと号泣した。





それから、少したち慧は男の家の前で空を眺めていると蒼い龍と黒い龍が飛んできて

慧の前で人間化した。

「ファル・ジーク・・忙しいのにごめん。」慧がファルとジークを見あげて言った。

「いや、気にすることはない。」ジークはそう言いながら慧の頭を撫でた。

「どうしました?」ファルは優しく慧の頭を撫でながら言った。

「ファル・・・お願い力を貸して・・・。蒼の秘術を使いたいんだ。」

ファルは厳しい顔で慧を見つめた。

そして、深い溜息をついて言った。

「仕方ないですね。ちゃんと説明してくださいよ。」




慧は、ジークを見あげて言った。

「ジークにもお願いがあるんだ。」


男は工房でうな垂れて地面を見つめていた。

その時、静かに肩に手を置かれて見あげると闇龍の男がいた。

「勝手に入ってきて申し訳ない。我はジーク・リー・ヤーリュ。

 ケイにあなたの話を聞いてほしいと言われてな・・・。」

「何で・・あなたが・・・?」男は掠れた声で言った。

「ケイが言うには我にはあなたの気持ちがわかると思ったそうだ。

 実は、我はケイと龍の約束を交わしている。

 それは、我が一族に復讐しないことという約束だ。」

「えっ。」

「その話を少ししようか。」

ジークは微笑みながら静かに自分の過去を話し始めた。





そして、その数時間後、母屋から蒼と金の光が溢れた。

ルイはそこに少し残りソフィアといろいろな話をすることにした。

ニコライとジークは秘術の為に倒れた、慧とファルを抱きあげると

セントミリュナンテに一旦帰ることにした。




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