眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-5-

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ルイは、真剣にテスリラと言う鍵盤楽器を弾く慧の背中を見つめながら

楽譜を作っていた。

シュミレフの国境の街から戻ってきてから

慧は、こうして結界を張りひたすらテスリラの練習や曲を作っている。

・・・紫龍じゃないんだけど・・素質あるのかな?・・・


慧がぼやいていた他のパートも少しずつできあがった。

慧が楽器の使い方がわからないので、慧がテスリラを弾き

それをルイが楽譜にしてその楽器で奏でるという方法を取っていた。

今は、最後に慧がどうしてもつけたいと言う

歌の部分の最終調整をしている。




ファルとジークはアシュタラに行き、リュークに楽器を習っている。

アシュタラの研究施設にも音楽好きな人がいたようで

弦楽部門はその人たち30人でまかなえると2日前にファルから

伝言があった。

一方、ジャンとニコライは神殿の神官に笛を習っている。

ナバラーンの笛はフルートのような音色の横笛とオーボエのような音色の

縦笛がある。こちらも、音楽好きな神官や新たな学校の音楽を教える者、

生徒やジャンが自治区から連れてきた子供などが一生懸命に音色を合わせている。

打楽器なども入り、こちらも30人程度が集まった。

とにかく、音楽が好きな人が集まっているので、皆がかなりの練習をしている。

ナバラーンでは、合奏と言っても30人程度が最高なそうで、しかもこのように

多種多様な楽器を織り交ぜるという演奏形態は取らない。



その代わり、紫龍は人を楽しませるための魔法を持っている。

そして、慧が次の発言をした時、周りはとても驚いた。

「曲の後半に新たな部分を作り、そこに合唱を持ってきたい。」

ナバラーンではあまり合唱はしないらしい。

つまりは、音楽は紫龍のものであって、一般的な人や龍はそれを楽しむのを

よしとしていて、自ら歌を歌うことはあまりない。

でも、1人で歌うのは好きな人は結構いて、慧が試験的に、ルイの友達や学校の

歌の好きな人30人くらいを集めてかつて異世界で学生時代に歌った歌を

歌わせるとすごく上手で、偶然居合わせたイアンやフェルやロベルトも

歌を歌うと言い出した。結局慧と交流のある金の龍全員がコンクールに

出場することになった。



「ルイ?どうかな?」慧が演奏を終えて聞いた。

「うん・・すごいや。歌詞もできたし、後は本当に練習だけだね。」

「そこで、ルイにお願いがあるんだけど・・。」

慧はそう言いながらルイを見つめた。

「なに?」

「いや、これだけの人数になったら指揮をする人がいた方がよいと思うんだ。

 ルイの歌は最後の合唱の部分を抜かして曲と曲との間だから、それまで

 前で皆をまとめてほしいと思うんだ。」


ナバラーンには指揮者というものはいない。

紫龍は演奏中魔法で音を合わせるのだ。

「えーーーっ。」ルイが驚いたように言った。

「ルイの耳は確かだし、曲を全部把握しているのもルイだから

 お願いしたいんだ。私はルイほど耳よくないし、テスリラは

 最初から最後まで演奏があるから・・・。お願いするよ。」

慧はそう言いながら小さく頭を下げた。



「ケイ・・僕にできるかな?」

ルイは不安そうに言った。

「うん。ルイならできると思う。

 私はね。魔法抜きで人を感動させたいと思うんだ。

 だからこそ、その指揮は紫龍のルイにしてもらいたい。」



「ケイはお父様を超えることができると思うの?」

慧は首を振って言った。

「私は、超えたいと思っているわけでないんだよ。ルイ。

 紫龍じゃなくても、仮に下手でもその人の人生はその人だけのものだと思うんだ。

 だから、それをわかってほしいんだ。

 芸術に秀でていなくても、感動をよぶことだってある。

 ルイ。お願いだよ。」

ルイはしばらく考えて小さく頷いて言った。

「わかったよ。僕ができる限りのことはする。」

慧はルイをみあげて嬉しそうに微笑んだ。




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