眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-3-

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「そうだ。まさかこの面汚しもまさかコンクールにでるのか?」



前の男は明らかにルイを小馬鹿にして手を振って言った。

「さあ、子供が来るところじゃない。さあ、帰った。帰った。」

周りの大人も迷惑そうに慧とルイを見ている。



慧は男を見上げながら一生懸命頭を働かせた。

ここで、声を荒げてもつまみ出されるのがせいぜいだ。



どうすれば、良いだろうか?



とにかく、コンクールの出場手続きをしなければならない。

子供にやられて困ること・・・困ること・・・


・・・あるじゃないか・・・

・・・恥ずかしいけど・・そうも言ってられない・・・。



慧は、そう心に決め小さく息を吸い込み足元のフィリオに心で声をかけた。

・・・フィリオ・・・結界をかけて私の感情を漏らさないようにしてくれない?・・・

足元から小さな声が聞こえる。

・・・ケイ様・・かしこまりました。・・・



フィリオが慧の周りに結界をかけると慧は

大声で泣き始めた。

「えーーん。おじちゃんがいじめる〜〜〜ぅ。」

元々小柄な慧がいろいろあって痩せているので

周りにはもっと幼くみえる。



慧は、続けた。

「ミリュナンテの大司教様にコンクールは子供でも参加できるって言われたのに

 かえれ〜〜〜っていわれた〜〜〜ぁ。大司教様うそついたの〜〜?え〜〜〜ん。」



龍聖が亡くなった時の悲しいことを思い出したら涙はポロポロでてきた。

驚いたのはルイだ。

「ケ・・ケイ、病み上がりなんだから、興奮しちゃだめだよ。

 ほら、興奮すると熱がでるだろう?」

おろおろそう言う。

慧の後ろにいたおばちゃんが言った。

「まあ、病弱な子供が折角来たのに追い払うなんて・・・。」

「ミリュナンテの大司教様がうそつくなんて、ありえない。

 子供虐めて楽しいのか?」

近くにいたおじさんも怒ったように声をあげた。



周りの大人たちも口々に慧とルイをかばう。

受付の紫龍の男の顔色はとたんに青褪めた。



その時、部屋の奥から凛とした声が聞こえた。

「何事だ?」

その時、ルイの口から「レオン兄様?」という言葉が漏れた。

レオンは、華奢な紫龍の割には大柄ですらっとしている。

慧はレオンがルイを見たとたんに眉間に皺をよせるのを見て

無性に腹がたったのでもっと泣くことにした。



「え〜ん・・出てきたおじちゃんもこわいよ〜〜。」

慧がおじちゃんと言った途端、レオンの眉があがったが

周りの手前もあり無理に笑顔を作って言った。

「ぼうや・・どうしたのかい?」



すると、慧の後ろに立っていたおばちゃんが代わりに

説明してくれる。

レオンは説明を聞くとあきれたようにルイを見つめ

できるだけ優しい口調で慧に言った。

「大司教様がうそをつくわけないだろう。

 ほら、男の子なんだからあんまり泣いちゃだめだ。

 奥のテーブルに座って手続きしよう・・・な・・。」

そう言うと、慧とルイを奥のテーブルに連れて行って

申込書の紙を取り出して、テーブルに乗せた。



慧は泣きやむとその申込書の文章を読み

羽ペンを貸してもらい見事な文字で申込書を書き始めた。



レオンはルイに話しかけた。

「お前もコンクールにでるのか?」

その口調は冷たく侮蔑がこめられていた。

「はい・・。」ルイは小さな声で肯定した。



男は慧の書いている申込書を見て驚いたように慧を見た。

「おい、総合部門に出るだと。正気の沙汰か?

 しかも、出演者100人だと・・・。」

「ええ。これで間違いないです。」

慧はきっぱりと言い切った。



「はははっ。」レオンは急に笑い始めた。

「芸術の才能が無いルイのお友達だけある・・・。」

慧は、それを聞いてとても腹がたった、そして同時に悲しくもなった。



レオンが申込書の控えを慧に渡すと立ちあがって言った。

「どうもお世話になりました。

 それが兄弟?帰ろう。ルイ。

 どんなに貴方が芸術に秀でいても

 あなたは人の心に残る演奏なんかできるわけないんだ。

 ルイ、早く皆のところに帰って、お茶でも飲もう。」



外では、急に天気が悪くなり雨がポツポツ降ってきた。

慧は、何度も深呼吸をして怒りをおさめようとした。



フィリオが・・ケイ様・・・と慌てた声が聞こえた。



・・・あ・・・ぐるぐる回る・・・



そう思った途端目の前が真っ暗になった。




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