眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-2-

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「はぁ・・。」

「何、溜息ついているの?ケイ?」

「だって、やること多いんだもん。あの曲の全体はルイのおかげで

 わかったけれど、その他のパートなんてまだ・・・。」

「うん。僕も協力するから頑張ろう。素晴らしい曲だよね。」

ルイは元気良く言った。



今日は、セントミリュナンテから日帰りできるシュミレフの国境の街へ

音楽コンクールの申し込みをしに慧とのんびり馬車に揺られている。

ルイは気持ち良さそうに風を受けている慧の横顔を見た。

自分よりも小さくて痩せている慧は意外と強引で、

今朝も昨晩、ニコライとジャンに一緒についてくると言われたのが納得できないのか

まだ誰も起きてない早朝にルイの部屋に忍び込んできて

一緒に国境の街についてきてと言われた時は

さぼり魔のルイも驚いた。



しかも、用意周到の慧は出入りの業者に頼んでこうして馬車の後ろに乗せてもらい

帰りも別の業者に頼んで送ってもらえると聞いた時は軽くめまいがする想いだった。

出入りの業者は専門の門があるのでミリュナンテを最短時間で出ることができるのだ。



慧はニコニコと置手紙をしたから大丈夫と言い、2人はこうして馬車の荷台に腰を

降ろしている。いつも慧と一緒のフィリオだけが小さな犬の姿で慧の横に丸まって眠っている。



馬車は、ミリュナンテを抜け国境の低い山を昇りシュミレフの国境の街へ向かっている。

ナバラーンでは黒い髪は珍しいのでケイは頭に布を巻いている。

そんなのんびりしたケイを見ていると、ニコライに怒られるとかビクビクしている自分が

おかしく感じられた。



お腹がすいたと思ったら慧がバックからパンにハムや野菜を挟んだサンドウィッチを

出してくれたので、2人で並んでかじった。

「ケイ、具合だいじょうぶなの?」ルイが心配そうに言うと慧はにっこりと大丈夫と

言ったが、お腹がいっぱいになると眠くなってルイの肩にもたれて寝はじめた。

「こんなに小さな体なのに・・すごいよね。」


龍の中でも一番華奢な龍が紫龍だ。

12歳を超えたばかりのルイも華奢で小さい。

しかし、慧はルイよりも華奢で痩せている。

ルイは長い指で慧の髪を撫でながら、遠くの景色を見つめて呟いた。

「シュミレフを出て1年たつんだな・・・。」

まさか、こんな形でシュミレフに行くとは思っていなかった。




シュミレフの国境の街に近づくとフィリオが目を覚まして慧の顔を舐めた。

「うーーん・・あれ・・・ルイ?ごめん。寝てしまった。」

慧は悪そうに謝るとルイは首を振って言った。

「毎日、昼寝しているんだもの仕方ないよ。」

「うん・・本当。体弱くて嫌になっちゃうね。」

慧はそう言いながらシュミレフの街を眺めた。




紫龍の国だけあり、音楽が聞こえる。

馬車に乗せてくれたお礼を言ってから2人は街の中心の広場で馬車を降りた。

夜が明けてすぐにミリュナンテを出てきたので

まだ日は高い。

帰りに乗せてくれる馬車が来るまで3時間くらいあるので

2人は早速音楽コンクールの受付をしているという

役所に歩いて行った。




コンクールの受付会場は人でごった返していて、体の小さな2人はたくさんの人に押された。

2人ははぐれないように手を繋いで長い列に並んだ。

ようやく、2人の順番が来るとルイの手が小刻みに震えるのを感じて

「どうしたの?」と慧はルイに聞こうとした。



突然、前に座っていた受付をしている男がにやにや笑いながら言った。

「これはこれは・・一族の面汚しのルイ君。どうしたのかね?」

ルイは悔しそうに唇を噛んで下を向いた。

慧は、ルイの手をぎゅっと握ってその男を見あげて言った。

「音楽コンクールの受付はこちらですか?」




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