眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-4-

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レオンは驚いたように手を伸ばすとルイがそれを遮った。

「兄様、ケイ様に触らないで下さい。」

ルイは横から慧を支えながら言った。



ルイの身長や体つきから言うと慧を支えるのがやっとだ。

しかし、ルイは慧をレオンに触れさせたくなかった。

ルイは慧を壁に寄りかからせるとそのままおぶった。

フィリオが2人の荷物をくわえた。



「ふん。あの申込書は無効だ。こんな馬鹿げた話があるか?」

レオンがそう言うと入り口から声がした。

「馬鹿げているのはむしろあんただろ?」

「ジャンさん・・・ニコライ先生・・・ファルム様・・・ジーク様・・・。」

見ると、怒った顔をしたジャンに妙に笑顔なファル、無表情なジークとニコライが立っていた。



ファルはルイの背中からそっと慧を抱きあげると

癒しの魔法を使いもっと深く慧を眠らせた。

ジークはフィリオの頭を撫で2人の荷物を持った。

ニコライは優しくルイの肩を抱いた。



ジャンはにっこりと笑って言った。

「ちゃんと、コンクールには申し込まれたのだろうな。」

「は・・・はい・・それは、もう・・・。」

レオンは慌てて言うとファルが口を開いて言った。

「この子は、怒りのあまり力が暴走しそうでそれを無意識に止める為に

 倒れたのです。何でこの子が怒ったかわかりますか?

 それが、今の紫龍の欠点だと私も思います。

 確かにコンクールの申込は馬鹿げているでしょう。

 私も初めは気乗りしませんでしたが、やはりこの子は正しい。

 コンクール楽しみにしていますね。

 当主様にもよろしくお伝えください。」

ファルはにっこり微笑んで会釈をして慧を抱えたまま外の方に歩いて行った。

他もファルの後に続いた。

「あれは、蒼の賢者・・ファルム様だ・・。」誰かがそう言った。

「あの少年は何者なんだ・・・。」その場所はざわついた。




外に出ると、ルイは俯いて言った。

「ごめんなさい。」

その時、ルイはぎゅっと抱きしめられた。

ルイはおずおずと顔をあげると、ニコライが穏やかに微笑んでいた。


「ルイ、お前は良く頑張ったなあ。」

ジャンがそう言ってルイの頭を撫でる。

「ああ、よくケイを守ったな。」ジークも優しくそう言った。

「おおかた、ケイが誘ったのでしょう?

 私達の裏をかく真似をするのはケイしかいないですからね。

 ルイは、よく頑張りましたね。」

ファルに褒められると、ルイの目から涙が流れた。

ルイは小さな頃からけなされてばかりいた。

耳が悪くて音がよく聞こえなかったからだ。

唯一ルイに優しかった姉も早くに亡くなった。

だから慧が耳を治してくれてから歌を褒められるのは本当に嬉しかった。

でも、自分の行動をこうして褒められることは初めてだ。

だから、すごく嬉しくてくすぐったいような気持ちになって

涙がぽろぽろ頬をつたった。

ニコライがそんなルイをぎゅっと抱きしめ、優しく背中を撫でた。


ルイが落ち着くとファルはルイにも癒しの魔法をかけてルイも寝かした。

ファルがケイを抱きしめ、ニコライがルイを抱きしめ、ジャンとジークに頷くと

4人はあっという間に龍になり、空にあがっていった。

それを見た人々が口々に言った。

「銀の玉をいだいた龍だ。桜龍もいる・・・。」



レオンは、窓から外を見て唖然として言った。

「あの子は金の龍人だというのか・・・私は何を間違っているというのか・・・。

 ルイはわが一族の面汚しなのに・・・。」

龍は高度をあげると一気にミリュナンテの方に飛んで行きあっという間に見えなくなった。





慧が目覚めるとセントミリュナンテの自分の部屋だった。

「あれ・・・?」慧は不思議そうに声を出した。

「ケイ、大丈夫?」ルイが屈みこんで聞いた。

「う・・・ん・・何かぼーっとする。」慧は真っ赤な顔で答えた。

「ケイが大馬鹿者だからですよ。

 大体、まだまだ油断できないくらいの体力しかないのに

 演技とはいえ泣いて、その後、怒りのあまり力を放出しそうになったのを

 抑えて・・・。」

ファルが額のタオルを変えながら言い、湯気がたっている椀を慧に差し出した。

「ファ・・・ファル・・これ緑色だけど・・。」

「グズグズ言わないで飲み干すんですよ。」

ファルはにっこり笑ってそう言った。





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