眠る君へ捧げる調べ

       第6章 君ノ眠ル地ナバラーン〜紫龍編〜-11-

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「本当にお祭りみたいだなあ。」

「そうですね。3日前の総練習では皆感激して泣きましたし、後は本番ですね。」

ファルが慧に微笑みかけながら言った。

ファルと慧は、シュミレフのコンクール会場になっている街を歩いていた。


何しろ、出演人数が100人ととても多いので、一緒に会場入りは難しいので

数日前から、小さなグループに分かれてこの街に入っている。



以前、紅龍にさらわれそうになった経験がある慧だけが

ファルと一緒にコンクール当日の朝、この街を訪れた。

「でも、あの演奏は皆の努力の結晶だよ。それにルイのお陰でもあるね。」

「ええ。ルイは、ここ1ヶ月でとても成長しましたね。」



1ヶ月前までは、個人や小さなグループに分かれて曲の練習をしていた者ほぼ全員が

セントミリュナンテに集まり、全員で練習するようになってからルイは本当に大変だった。

全体の調和を考え、曲をまとめあげなければならない。

小さなルイが指図することを心の中では不快に受け止めている者もいた。

しかし、ルイはあきらめることなく真正面から皆に触れあい、演奏は日を追うごとに

上達した。



たぶん、たくさん悩んだろうと慧は思う。

それでも、ルイはあきらめず弱音を漏らさなかった。

慧が「大丈夫かい?」と聞くとルイは微笑みながら

「歌を歌っていれる今が幸せだから大丈夫だよ。」と答えた。

そして、3日前の総練習では息のあった演奏をして皆がルイを称えた。



コンクール自体は数日前から始まっていて、今日はいよいよ総合部門の演奏になる。


午前中に紫龍当主の演奏で午後から慧達の演奏になっていた。

黄龍の当主であるロベルトが大々的に宣伝したおかげで

コンクール会場である街は屋台や人でいっぱいだった。



「何か、ファルと一緒に歩いているって昔を思い出すね。」

慧が無邪気にファルを見あげるとファルは目を細めて慧の頭を撫でた。

「そうですね。ケイは、今よりずっとおちびさんでしたね。」

「えっ。そんなにチビだった?」

2人は顔を見合わせてクスクス笑った。



2人は紫龍の宮殿の方に行き、門番に許可証を見せると大きな部屋に案内された。

そこには、他の者もいてファルと慧を歓迎した。

「慧様もファルもこちらに着替えてください。」


ニコライが衣装を差し出して言った。

どちらも白い服で、上に巻く布の色が違う。

ファルの布は青空のような光沢のある青い布で

慧のはオレンジ色の布だ。

その服を着た上から長い黒いマントを羽織ると衣装は終わりだ。




衣装を着終わると、ジャンがやってきて慧に囁いた。

「紫龍の演奏見れる場所みつけたぞ。ちょっと行って見ないか?」

慧が頷くとジャンは大きな建物の裏にある大きな木の下に来ると

慧を片手で抱きあげながら木を登りだした。

ある程度登ると窓から会場の中が見えた。



「たぶん、後少しは見れると思うぞ。」

耳元でジャンが囁いた。

「なんか・・皆が言った意味がわかるかも・・・。」

慧はステージを見ながら言った。



演奏の技術も高く、隙がない。

そして、それを素晴らしくしているのが紫龍の使う魔法というものだった。

演奏中に森がでてきたり滝がでてくる。



・・・実写版のプロモーションビデオみたいだな・・・。

美しい演奏だと思う。

歌も力強くて素晴らしい。

でも、慧にはその歌がどこか寂しげに聞こえていた。



「ジャン・・でも・・・。負けないよ。」

慧はそう言ってジャンを見あげると「おう」とジャンも慧の頭を撫でた。

2人はこっそり部屋に戻るとニコライが皆におそろいの面を配っていた。



「ルイ。がんばろう」慧は緊張しているルイの横に立って言った。

「うん・・・。」ルイは精一杯微笑んで言った。



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