眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-9-

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「つまり、ここは初代龍王の想念の世界で

 貴方はリューゼのひいひいひいじいちゃん?

 で、貴方がリューゼのひいひいひいばあちゃん?」


「「その言い方はやめてくれ。」」

眉をひそめて否定する2人をみてニコライは思わず吹き出した。



「慧殿、歓迎する。私は、タカマサ・ラン・ナバラーン。

 元の名を加納貴雅と申す。」

「ケイ。私は初代龍王。リュートアルト・ラン・ナバラーンだよ。

 リュートと呼んでくれ。」

と2人は名乗った。

「私は、佐伯慧と申します。ケイと呼んでください。」

慧はリュートに治してもらった足を折って正座して言った。

貴雅がピンと背筋を伸ばして正座していたからだ。

「じゃあ、遠慮なく。慧。俺はタカでいいから。

 ゆっくりここで養生するといいよ。ここは君にとって懐かしい場所だろうから。」

貴雅は微笑みながら言った。

「あの〜〜。そもそも、何で私はここに?」

慧が不思議そうに首を傾げながら言った。




「ケイ様、貴方は蒼の秘術を使いましたよね。」ニコライが静かに話し始めた。

慧はコクリと頷いた。

「私は、ルイがかわいそうに思えたんだ。

 あんなに音楽が好きで素敵な声をしているのに努力しても実らない。

 それは、ルイの耳が悪かったせいだと思ったんだ。」

「耳が?」

「そう、たぶん私が思うに、ルイは高い音を聞き取りにくかったと。

 だから、音階が高い音がずれるんです。

 私も眼が見えないから他の感覚が鋭くなったみたいで気がつきました。」

「それで・・?」

「ニコライ知っておりますか?ルイは神官になりたくないって。」

「まさか。そのような生徒はいるはずが・・・。」

ニコライは驚いたように言った。

「家柄を気にする親なら邪魔ですよね。その才能を受け継がなかった者は・・。」

「じゃあ、そういう生徒はルイだけではないと・・。」

「たぶん、そうだと思います。ルイもそういう話をしていたし・・。」

「確かに・・・。年々神官の質は下がっているのが職員の悩みの種ですが・・・。」

「それで、私はどうしてもルイの耳を治したかったんだ。

 だから、秘術を・・・。あれは難しい秘術であまり使っちゃいけないと言われてたんだけど・・。」

「そうです。あの秘術を使ったせいで、あなたの魔力が暴走しあなたの体を壊しはじめたのですよ。

 それで、私は魔力を放出させても良い場所にあなたを連れてきたのです。

 ここは、たくさんの魔力が外に漏れない場所だとわかっていましたので・・・。」




「ケイ、ここはね。桜龍の修行の場なんだよ。」貴雅が口を開いた。

「ニコライ・・それは大切な修行じゃ・・?」


慧は心配そうに言うとリュートが口を開いた。

「ニコライは、ここでちゃんと修行する。

 いいかい。ケイ。君は自分で思っている以上に大切な存在なのだよ。」

「なんで?」不思議そうに慧は言った。

「金の龍人と言うのは、伝説の存在って知っているだろう?」

「はい。本で読みました。」

「ケイ、金の龍人はナバラーンの長い歴史でも君しかいないんだよ。」

「へっ?」慧は目を見開いた。

「そう、俺も金の龍人ではなかった。」貴雅もそう言った。

「私がナバラーンを作ったとき危惧していることがあった。

 それは、ナバラーンに歪みが生じるのではないかということだ。」

「歪み?」

「ああ、今の龍王まで何代もの龍王がナバラーンを治めたはずだ。

 そして、その中で歪められていたこともある。

 例えば、先ほどの件もそうだ。私が治めていたときは神殿の学院は

 心より神官を望んだ者しか入学できなかった。

 それが長い年月を経て今のような状況になったのだろう。

 ニコライ、たぶん学院では金品で私腹を肥やしているものもいるはずだ。」

「えっ・・そんな・・。」ニコライは、驚いたように眉を潜めた。




「じゃ。リュート。その歪みと龍人って何か関係あるの?」

「ああ。金の龍人が出現するには試されているのは龍人だけではないんだ。」

「私だけじゃないの?」

「ああ。まず、龍王の意識だ。今のナバラーンの歪みに気づき変えようと願う力を

 龍王が持たねばならない。そして、花嫁を見つける条件が1つ。

 1人だけを愛することだ。」

「つまり・・リューゼは私だけを?」

リュートは頷きながら言った。

「そして、異世界で側近の龍がその花嫁を認めること。

 龍王が没してから1月以内で花嫁がこちらへ渡る事。

 花嫁が、狭間で龍王を選び求めること。それが条件なのだ。」

「そんな・・・じゃあ、何でそんなに条件をつけたの?」

「それは、金の龍人が現れることは私にとっても賭けだった。

 そして、金の龍人が現れた時の為にここに想念の世界を作り待っていた。」

「じゃあ、ケイ様がここに導いたのですね。」




「ああ。そうだ。ケイ、君に伝えたい。この国の創生。

 そして、私達の理想を。」

「慧。私からは私の授かった力を。そして、金の龍の力の使い方を教える。

 ニコライが修行終えるまでだから、短い間で詰め込むよ。」

貴雅が微笑みながらそう言った。




「リュート・タカ。その為に何千年も、待ってくれたの?

 肉体が無くてもずっと・・・ここに・・。」

慧がポツリと言って涙をぽたぽた零した。

「ありがとう。ケイ。君は優しい人だね。」

リュートがそう言いながら慧の頭を撫でた。

その手がリューゼの手のように優しくて慧は涙が止まらなくなった。





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