眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-10-

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『慧、今日は大漁だな。』

貴雅が魚篭を見ながら言った。

『うん。』

慧も嬉しそうに言う。

基本的に自給自足の生活なので、昼の修行が終わると

2人は釣りにでることを日課としている。

ここに来て、10日ほどが過ぎ、ここの生活が楽しくなった。


何しろ、慧にとってこの場所は、懐かしい雰囲気の場所で

食べ物も和食中心なのでとても嬉しく、率先して

厨房に立ち貴雅を喜ばせた。

貴雅は、鎌倉時代の武士だったそうで、男子厨房に入らずを

実践していたようなので、慧が煮物を作った時には

感動してくれた。



『タカ?聞いて良い?』

慧は聞いてみたいと思っていたことを聞くことにした。

『なんだ?答えれることなら何でも答えるよ。』

『不安に思ったことなかった?』

貴雅は慧が聞きたいことがわかったように微笑んだ。

『そうだよな。慧は不安に思うことが多いんだよな。

 正直、私もリュートに出会う5年は不安だった。

 男同士の恋愛だし、言葉も違うし・・・。

 いや、リュートに会ってからも不安だったよ。

 ナバラーンでは私の常識は常識ではない。

 男が子を為すなんて思ってすらいなかった。』

『子を為す?』

『ああ。慧も子を為すだろう。

 でも、リュートと結ばれてから、本当にいろいろなことが

 あって、それは良いことも悪いこともあったが

 リュートはいつも私を大切にしてくれた。

 私はね。ある時、考え方を変えることにしたんだ。』

『考え方を変える?』

貴雅は頷きながら言った。

『そう。自分が今できることをやろうと、思ったんだ。

 所詮、力は貰ってもリュートほどのことはできない。

 だから、全てを受け入れて自分ができることをやろう。

 自分の場所をリュートが安らげる場所を作れれば良い

 と思ったんだ。』

『そうなの?』

『そう。そう生活しているうちにあっという間に千年たって

 しまったよ。だから、慧。あまり考えることはない。

 今は不安で龍王と一緒になることに不安を感じることはあっても

 大丈夫だよ。案ずるより産むが安し。だよ。』



貴雅はそう言って優しく微笑んで慧を抱き寄せた。

貴雅の言う大丈夫はとても力強かった。

慧はその言葉に救われたように感じた。





「ニコライ。世はそんなに乱れているのか?」

リュートは修行を終え休みながらニコライに聞いた。

「私はこれが普通だと思っていたのですが、

 リュートやタカのお話を聞いているとやはり乱れているのですね。」

ニコライは静かに言った。

「しかし、正直私が危惧しているほどひどくはない。

 でも、今世の龍王は危機を感じている。

 なぜなのだろうか?ニコライ、今の龍王について知っていることはないのか。

 それにもう1つ不思議なことがある。」

「何でしょうか?」

「銀の龍だ。ケイが銀の龍を認めていない。しかも、ケイの最初の銀の龍は

 智徳の蒼龍。何か考えがあるような気がする。」

「私も驚いたのですが、ファルム・リー・ソーリュは医師としても研究者としても

 有名な方です。龍王様については・・・私は何も・・・ただ・・・。」

「ただ・・・。」

「今の龍王様のお父上の前龍王様は、早くに妃様を亡くしています。」

「妃を亡くす?そんなことがありえるのか?」

「原因はわかりません。しかし、私の父も含め現当主・そして龍王様は

 銀の龍ではなく金の龍に育てられたという話です。」

「そうか・・・。蒼の龍は何かを知っているかも知れないな。

 ところで、ニコライ。君は銀の龍になる気はあるのか?」

「リュート様。私には正直銀の龍はどのようなものかわかりません。

 それでも、ケイ様はナバラーンの宝だと思っております。

 その宝を守りたいと思う気持ちだけで銀の龍になって良いのでしょうか?」



リュートは微笑みながら言った。

「ニコライ守りたいと思う気持ちが大切なのだよ。

 銀の龍に資格などない。

 そして、ケイを支える銀龍にも大きな使命があると思う。

 だからこそ、ここまでケイを連れてきたニコライ、

 君に桜龍の銀の龍になってもらいたいと私は思う。

 私は、修行の他にも君に銀龍のことを伝えたい。」

「リュート・・様・・・。」

ニコライは目を閉じて少し考えた。

「ニコライ。神官は私に仕えるのではないのだよ。

 ナバラーンの皆の幸せな未来に仕えているのだ。

 君が神官を離れ銀の龍になっても、その心を忘れなければ

 良いと思う。」

「わかりました。この修行が終わりましたら、私は

 ケイ様に誓願をたてましょう。

 どうか、私に銀の龍のことを教えてください。」

ニコライは、そう言い、深々と頭を下げた。




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